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まるで真っ暗な水の中にでもいるような心地がしていた。
そこは光を感じられないだけではなく、音もない。体という感覚は朧気に感じ、ただ僕の意識だけがそこにあるような気がした。
次第に僕の心臓の鼓動が弱まっていくのを感じる。だけど、抗うこともせず、まるで奈落の底に落ちていくかのように、僕の意識はそこを沈み続けていく。
こうしている限り僕は何も考えなくて済むんだ……。ずっとこうしていれば、僕はどんな痛みも、悲しみも、きっともう感じなくて済むんだ……。
だからこのまま、このままもっと深く……深く――。
――「本当に、それで良いの?」
突然、僕はそんな声を聞いた。
もう良いんだ……僕には、守れなかった……。そう……誰も守れなかったんだ……。
「君は、誰を守りたかったの?」
僕は……僕に救いを求めた……みんな……を……。僕は、みんなを守ろうとしたんだ……でも、僕には……何もできなかった……。
「いいや、違うね」
……………………違う?
「確かに、君は守ろうとした。でも、それは“みんな”じゃない」
じゃあ……僕は……いったい誰を守りたかったって言うんだ……。
「君には守りたいと思った人がいただろう。君の言う、その“みんなの命を全て犠牲にしてでも守りたいと思った”――たった一人の人がね」
……………………嘘だ。
「僕は知ってる、君の中でそれを感じたから。だから、僕も力を貸した、君のその“意思”に」
……うるさい……なんの話を……しているんだ……。
「でも、今の君にはもうそれを思い出すことができないみたいだね。ああ、これは酷い、これまでの回路が見事に切られてしまっている――それも、“意図的に”」
……お前は…………誰だ……?
「愚問だなあ、僕がいったい何者かを知るよりも、君はまず“自分はいったい何者だったのか”を知る必要があるっていうのに。ほら、いい加減に目を覚ましたらどうだい?」
――「君は、“あの子”を守るんだろ――今度こそは――」
その時、真っ暗だったこの場所で微かな光を感じた。僕は閉じていた目をそっと開く。すると、そこには小さな光の粒が頭上に浮かんでいた。
――ああ……そこにいたんだ……。
僕は、その光を見て不思議と懐かしいような気持になった。前にも、僕はこの光を見たことがあるような気がする……。
それから、僕は――足掻いた。
必死に手足をバタつかせて体をよじらせるようにしながら僕はその光の方へと体を浮上させていく。
――あの子は、僕が守るんだ――!!
それは衝動的な感情だった。もう誰かもわからないその人を、僕は絶対に守りたいと、心の底から思ったんだ。
だから、もっと、もっと速く――もっと、もっと強く――!!
そして、僕はついにその光をこの手の中に握りしめた――。
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