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部屋の壁を見ると、この部屋を囲むようにカーテンの無い窓がいくつも付いていた。その向こうにはここにいる男と同じ格好をした人間の視線を感じる。
――なんだ……ここ…………?
正面右手には出入口のような扉がある。けれど、きっとただの扉ではない。かなり重厚そうな造りで太いロックボルトが交差するように二本合わさり、到底人間の手だけで開閉できる代物ではないだろう。
それに、僕は違和感を感じざる負えない。そう――病室にしては“ここはあまりにも不自然すぎる”。と、ようやくそこで僕の思考が働き始めた。
――なんだよここ……病院じゃ……ないのか……?どこなんだ……僕は、どうしてこんなとこにいるんだ……ッ!?思い出せ、思い出すんだッ………………!!。
僕は咄嗟に記憶の遡行を試みた。でも、おかしなことに僕の頭の中には何も映らない。
――なんで……?なんで何も思い出せないんだ……?
まるでどこにもチャンネルが繋がらない真っ暗なテレビモニターをじっと見つめているような気分だ。いつになってもそのモニターに記憶という映像は浮かんで来ない。
もう一度、もう一度と僕はまた何度も記憶の遡行を試みる。でも、結果は変わらず、得体の知れない不安だけがどんどんと胸の奥で蓄積していくのがわかる。
――おかしい……どうして……?
それに気が滅入りそうになる。
――なんで何も思い出せないんだ……くそっ……なんで……なんでッ!!
そんな自分に憤慨しそうになる。
頭がどうにかなりそうだった僕は、そこで一度記憶の遡行を止めるしかなかった。
――落ち着け……少し、冷静になろう……。きっと、いっぺんに思い出そうとするから混乱するんだ。少しずつ、そうだ……冷静に――。
その時だ――僕の体に酷い悪寒が走った。
急に生暖かい汗が額を伝い始め、“嫌な予感”のようなものが一つ、僕の中に湧き起こる。
――嘘だろ………………!?
その時に、僕は気づいた。僕が思い出せないのは、“どうしてここにいるのかだけ”じゃない。
――そもそも、僕って……………………………?
その現実は、到底すぐに受け入れられるものじゃなかった。
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