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勝手に仁はどんどん話を進めていく。このままでは、乃愛の人生は勝手に決められてしまう。慌てて乃愛は言った。
「私、パティシエになりたいの!入籍とかは製菓学校を卒業してからがいい……」
「は?」
仁は一瞬ポカンとした後、口々に乃愛に言葉をぶつけた。
「子どもができたら仕事なんて続けられないだろ!菓子作りがしたいなら家でやればいいじゃん。菓子作りを仕事にってお前には無理だって。女は家事と育児に専念するべきだろ。仕事の両立なんて絶対に無理だって!生まれてくる子どもが可哀想じゃん!」
言葉は、まるでナイフだ。鋭利な刃が柔らかい心を貫き、そこから血が溢れていく。
仁は乃愛を応援することはなかった。仁が応援しないということは、乃愛の両親も夢を追うことに反対するだろう。乃愛に残された道は一つしかない。
乃愛の耳にもう仁の言葉は届かなかった。まだ何か話している仁の前で乃愛は勢いよく立ち上がり、その場から走り出す。
頬を、涙が伝った。
乃愛の体はいつの間にか学校にあった。職員室まで走る。その先にいてほしいのはただ一人だけだ。ドアを開けた先、偶然にも職員室にはその人しかいなかった。
「中野さん!?」
休日に生徒が泣きながら来たことに秀一は酷く驚いていた。だが、仕事の手を止めてその体と顔は乃愛の方を向いている。
「甘粕先生!」
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