私の「運命の人」

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「おや、中野さん。まだ残っていたんですか?」 ガラリと音を立てて家庭科室のドアが開き、低いテノールが乃愛の耳に入り込む。その声に乃愛はびくりと肩を震わせ、緊張を覚えながら顔を上げた。 スラリと長い手足、180近くある身長、艶やかで切り揃えられた黒髪、雪のように白い肌、「美しい」という言葉が相応わしいスーツ姿の男性が立っていた。その左手に、配偶者がいる証であるはずの指輪は嵌められていない。 「甘粕秀一(あまかすしゅういち)先生……」 乃愛が胸の高鳴りを感じながらその名前を口にすると、秀一は「何故フルネームで呼ぶんですか?」とクスクスと笑いながら言う。クシャッと笑った彼は無邪気な子どものようで、乃愛はデコレーションされたカップケーキを乗せた皿を差し出した。 「あの!甘粕先生!よかったらどうぞ……」 「これを私に?」 秀一はキョトンとした顔でカップケーキと乃愛の顔を交互に見つめる。その時、乃愛は婚約者に言われた言葉を思い出し、慌てて訊ねた。 「甘いもの、お嫌いですか?」 「いいえ、大好きです。いただきます」 そう微笑みながら秀一は言い、カップケーキを一つ手に取り、一口食べる。乃愛は緊張を覚えながらその様子を見ていた。
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