私の「運命の人」

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秀一はそう言い、家庭科室を出て行く。扉が閉まる音が乃愛の耳に響いた。刹那、乃愛はその場にしゃがみ込んでしまう。胸の鼓動が苦しいほど早まっており、顔に熱が集まっていくのがわかった。 「甘粕先生……」 もうここにいない彼の名前を乃愛は呟く。許されない想いだとわかっていても、秀一を見かけただけで乃愛の胸は締め付けられるような感覚を覚えてしまう。 乃愛は、「運命の二人制度」で決められた婚約者がいるにも関わらず、秀一に恋をしているのだ。 秀一は今年の四月から、音楽の教師としてこの学校に来た。音楽の教師が妊娠を機に退職することになったためである。 店員などを除き、婚約者以外の異性と関わることがタブーとされている中、何故秀一が女子校にいるのか。それは、彼の薬指に指輪がないことが大きな理由だ。 生まれつき、子どもが作りにくい・または作れない体の人がこの世の中には存在する。不妊と診断された人には生まれながらの婚約者が決められることはなく、結婚をするもしないも自由となる。 しかし、不妊と生まれてすぐに診断された人は、婚約者がいないことで後ろ指を指されてしまう。この学校も例に漏れず、秀一のことを同じ教員ですら見下しているのを乃愛は感じていた。
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