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婚約者である桜屋敷仁からのメッセージだった。
土曜日、朝の十時ぴったりに仁は乃愛の家にやって来た。古いマンションの前に不釣り合いな高級車が横付けされており、近隣に立ち並ぶ家の住民たちが何事かと家の中から様子を見ている。
「迎えに来た。早く行こう」
高級ブランドの服を身に纏った仁が挨拶もせずに言い、乃愛は顔に薄い笑みを貼り付けて頷き、出かける時用の鞄を手にする。
「乃愛、失礼のないようにね」
「仁くん、娘をよろしく頼みます」
乃愛の両親が玄関まで姿を見せ、乃愛に口酸っぱく「失礼なことをしないように」と言い、仁にペコペコと頭を下げる。
乃愛より五歳年上の仁は、大手企業の跡取り息子である。彼の家はお金持ちで、乃愛の両親は自分の娘が玉の輿に将来乗ることが決まっていることに喜んでいる。そのため、仁とその家族に気に入られようと必死だ。
「行ってきます」
貼り付けた笑みのまま乃愛は両親に挨拶をし、仁と共に高級車へと歩く。その間、近所中から視線を感じ、乃愛はどこか落ち着けなかった。
「これからどこに行くの?」
「映画」
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