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しばらく抱きしめられたままでいると、志艶の腕からそっと解放された。
「今度こそ奪われない」
「え?」
「防盗金庫に入れる」
「ぼ……ぼーとー? 金庫? 何の話?」
「宝の話だ」
……宝? 何なんだ一体。よくわからないけど、志艶は手のひらに乗った蓮の花を見てふわっと笑っていた。
これはもしかして……ずいぶん嬉しそう?
「気に入ってくれた?」
「あぁ。蓮香、ありがとう。それに、また作れるようになって嬉しい」
「志艶が心療内科とカウンセリングをすすめてくれたおかげだよ。まだ使えない道具もいろいろあるんだけど、使える道具だけを何とか駆使してつくるっていうのも結構楽しいんだ」
「そうか」
「私ね、2年生になったら『彫刻コース』を選択しようと思ってる。それで、3年生までに作品展で賞を取ることを目標に頑張って、それで大学部への進学は造形学部を目指そうと思ってるんだ」
桜凜学園大学の造形学部は他校からの受験者も多く、高等部の美術科からですら進学が非常に難しい狭き門だ。だがそれを、今は目指したいと考えている。
そして合格した暁には志艶のそばで……。自分の力で志艶のそばに行くんだ。
「そうか、応援してる」
「うん、頑張る」
こう思えるようになったのは本当に志艶のおかげなのだ。
真木たちに病院に連れていかれた時はどん底みたいな気持ちだったのに、今では感謝している。
ただずっと我慢して無理矢理隠すばかりだった怖いものを、今は少しずつ受け入れて、怖さを理解したうえで使って、怖がり過ぎなくてよくなって……
これからもっと大きな作品が作れるようになりたい。サモトラケのニケみたいなの作れるかな、なんて思ってクスッと笑っていると、ふと志艶の手が腰に回って引き寄せられた。
こちらをじっと見つめているのって、もしかして……
今度こそ開幕第2戦じゃない!?
そう思っていると、ゆっくりと志艶の顔が近づいた。
嬉しい。私もキスしたいって思ってたもん。
……でもね、でもね、でもでもーっ! 待って!
蓮香は慌てて志艶の唇を手で塞いだ。
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