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それからいくつもの季節をまたいだ春――
「じゃあ、私ちょっと行ってくるね」
真央・咲那子・美希に手を振って、蓮香は大学部敷地内の中央広場を駆け抜ける。向かったのは、そこから桜並木を抜けた先にある管理棟。
学生証をかざしてセキュリティゲートを通過し、エレベーターに乗って15階へ。
そして廊下を進み、『桜凜会』と書かれた部屋の前に立った蓮香は大きく深呼吸をしてその扉をガチャッと開ける。
するとパッと太陽の差し込む明るい室内、入口ドアから7m位離れた正面の大きな執務机の向こうの椅子に座る志艶、それを囲むように伊織・ルイ・本田が立っていた。
……志艶がいる。自分で近くに来ることができたんだ。これから一緒にいることができるんだ。
ジーンと感動して視界が滲んでキラキラ揺らめいて見える。
「何か言うことはないのか?」
志艶の声はやっぱり好きな声だな、なんて思いつつ、蓮香は涙を拭ってフフッと笑った。
「あるよ」
「なんだ。言ってみろ」
「桜凜会本部に入ることになりました、造形学部彫刻専攻1年、榊蓮香です! よろしくお願いします!」
すると、皆が順に声を上げる。
「奇跡的な本部入りですよね。満艶さんの壮大なプレゼンとゴリ押しの推薦がなかったら到底無理だったんじゃないですか?」
「伊織……『到底』は余計。私ちゃんと頑張ったのに」
伊織の言葉にムスッとした顔をしていると、ルイがクスクス笑う。
「蓮香はかわいいから、僕は大歓迎なんだけどな。でも……確かに奇跡」
「ちょっと笑わないでよ、ルイ!」
なかなか失礼だな……。
すると本田が眼鏡の真ん中を中指でクイッと押し上げて口を開いた。
「お願いですから大人しくしててくださいね。飼育係はごめんだ」
「し、飼育係!? 私、本田さんのペットじゃないんだけど」
……ねぇ、みんな結構失礼じゃない?
顔を引きつらせて黙っていると、志艶がこちらをじっと見つめて口を開いた。
「よく来たな。歓迎する」
嬉しい。志艶だけは優しい……。
「志艶……ありがとう」
「お前をモニタリングする手間が省けて助かる。大人しくここにいろ」
がっくり。
うん、安定のストーカー発言だね。ストーキングの手助けをしたようなものってこと?
「もうっ、みんな失礼すぎるーっ!」
みんなクスクス笑ってるけど、それでも歓迎会を開いてくれるらしいから、一員として迎え入れてもらえるということなのだろう。
これからは志艶と一緒にいられるんだ。
初等部3年から10年。長かった離れ離れの時を経て、ようやく……。
「蓮香、早くこちらへ来い」
そっか……もう志艶に「俺に近づくな」って言われないんだ。近づいていいんだ。
ここに……志艶のそばに、私の居場所もある。
そう思ったらワッと泣き出してしまいそうだったけれど、嬉しい時はどうせなら笑ってたい。
「うん!」
志艶の元へ駆け出す。
志艶のすぐそばにいるために。
離れずにずっと一緒にいるために……。
ここから蓮香の大学生活が始まる。
【輝く君に100の花束を~愛しきストーカー様、あなたの正体暴いてみせます~ END】
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