宗像人魚伝説

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 ヨナは大喜びし祝宴を開いた。  ところが奇跡はそれだけではなかった。  三姉妹が来てからというもの、ヨナが漁に出れば網に黄金がかかり、山の頂に登ると天から黄金が降ってきた。こうして老夫婦はたちまち裕福になった。しかも三ヶ月も経たないうちに、三姉妹は人並みほどの背丈となり、いつのまにか人魚の尾鰭もなくなって、二本の足となり、まるで天女のように麗しく輝くお姫さまになった。  こうして三人の姫さまの噂は、瞬く間に、族長の宗像はおろか、この国の全ての島に響き渡った。  噂を聞きつけ三人の姫さまを一目見ようと多くの若者が、昼に夜にヨナの広い屋敷を訪れたが、誰一人として、三姫に会うことは出来なかった。さすがのヨナも、少し話してみてはどうかと、三人の姫に勧めてみたが、三姉妹は毎日のように巫女として祭祀を学び、呪術に磨きをかけることに熱心で、恋に関心をしめさない。  ある日、ヨナが広い部屋でお茶を飲んでいると、長女のたきり姫がやってきて「お父さま、お見合いをしろとはどういう意味ですか? わたしは神さまの巫女として生きたいのです」と抗議した。 「神に仕えることは並大抵のことではないぞ」  ヨナは、娘が平凡に結婚して幸せを掴んで欲しいと思っていたが、長女の一途な性格を知り尽くしていたので、あからさまに反対しなかった。 「わたしはお父さまのように、神さまに深く愛され信頼されたいのです」  娘の大きく黒い瞳は真剣そのものだった。  たきり姫の長女らしい生真面目さと責任感の強さが、ヨナは可愛らしくてしかたなく「神さまは寛大だ。おまえも心が大きく広く深くあらねばならない。このわたしでさえ、まだまだなのだよ」と諭すのだが、「だからこそ恋などしている暇はないのです」と、たきり姫はきっぱりといいきる。  親孝行なたきり姫は、父と同じように、海の向こうへ渡る漁師や、海の向こうから遙々やってくる人々の、航海の安全を祈りたかったのだ。  その時、次女のいちきしま姫がやってきた。 「お父さまも、お姉さまも、そんな真剣な顔をして、何をひそひそと話しているのですか」
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