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次女のいちきしま姫は三姉妹のなかでも容貌の美しさは比類なく。神さまの前で舞う舞いは、天女のように華やかで、気品に満ち溢れていた。ところが男勝りの性格だったので、小さな頃は、長い髪を短く束ね、白い貫頭着に腰紐を強く結んだだけの姿で、おのこにまじって野山を駆け巡った。しかも人一倍、正義感が強かったから、強そうな男だろうと、相手が大人だろうと、いじめを見たら、なり振り構わず喧嘩した。売られた男もはじめは女だからとなめてかかるが、口が立ち、恐ろしく頭がきれ、おまけに運動神経が抜群だったので、決して喧嘩に負けることがなかった。
「お父さまが婿をとれと急かすものだから、断ってたのよ」
たきり姫は、見合いの話しから開放されると、顔がパッと明るく緩んだ。
「まあ、わたしなら会ってみるのに」
いちきしま姫が、ヨナと姉の前にゆっくり座る。
「それならいちが代わりに会ってよ」
「わたしも興味ないわ」
「どうして」
「だってその殿方はお姉さまを恋い慕っているのよ」
「あら、そうは思わないわ、わたしたち三人に会いたがっているのよ」
それを聞くなり、いちきしま姫は、
「そんな不純な奴らに興味ないね」
高い鼻をツンとさせ、空に漂う綿雲に目をやった。
みんなの楽しげな話し声につられ、末っ子のたぎつ姫もやって来た。
「わたしをのけ者にして、みんな楽しそう」
たぎつ姫はてっきり自分一人だけ仲間はずれにされたと、ふくれっ面だ。
「姉貴にお見合いの話しが殺到してるのよ」
いちきしま姫は姉を見ながらニタニタ笑う。
「殺到だなんて、また大げさな言い方を。たぎが誤解するわ」
たきり姫がにこやかに言うので、
「いつもお姉さまだけ。そんなのずるいわ」
たぎつ姫は恨めしそうにヨナの方を見る。
「お父さま、わたしにはないのですか?」
たぎつ姫は目を潤ませながら訴えた。
「こうした話しは、生まれた順に話しをすすめるものなのだよ」
ヨナは額に冷や汗を滲ませ、やさしくたぎつ姫を見つめる。
三女のたぎつ姫も、姉たちに劣らず美しい姫だが、小さな頃から、何をするにも、姉たちの後ろ姿を見て育った。だから姉たちが美しくなり、霊的な能力も開花していくと、焦りを感じていた。
「まあ、話はそのへんにして、美味しいお菓子でも食べましょう」
おばあさんが、白い団子を持って部屋に入ってきた。
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