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真っ先にいちきしま姫が手に取り「美味い」と目を輝かせ団子を頬張る。
「ほんのり甘くて、もちもちしてるわ」
たきり姫も上品に食べながら微笑む。
「うん」
さっきまでふくれっ面だったたぎつ姫も、嬉しそうに団子を口に含み頬を緩ませた。
ヨナとおばあさんは、そんな娘たちの幸せそうな姿をやさしく見つめ、おたがいに顔を見合わせ微笑むのだった。
ある日のこと、たきり姫が神奈備の杜と名付けられた、三姉妹が天から舞い降りた高台から、遠い海を眺めていると、玄界灘を小さな船が波に煽られながら漂っているのが見えた。しかもよく見ると人が一人心細そうに乗っている。
(このままじゃ転覆してしまうわ)
たきり姫は急いで山を駆け下り、浜に向かうのだが、船は沖合にどんどん流されていく。
砂浜からたきり姫が船を見ると、船の青年も気付き、立ち上がって大きく手を振る。
「あぶないわ!」
声を張り上げたが届くはずもなく、船は波に煽られ転覆し、青年は海に投げ出されてしまった。
「すぐに助けに行くわ」
たきり姫は周囲に人がいないのを確かめ、着ていた白い衣を松の枝にかけた。それから人魚の姿になって海に飛び込み、素早く青年の元へ急いだ。ところが潮の流れが早く、青年の姿が見つからない。
必死になって、波の間から間へと泳いで探し、ついに溺れかかった青年を見つけた。
「もう大丈夫よ」
たきり姫が微笑むと青年は「ありがとう……」と言って意識を失った。
「友をすぐに呼ぶから」
たきり姫が心に強く念じると、掌に青い玉が現れ光り輝いた。するとシロナガス大クジラが現れ二人を呑みこんだ。大クジラはそれから浜辺まで悠々と泳ぎ、浅瀬に近づくと二人を砂浜に吐き出したのだった。
たきり姫が青年の顔を覗き込む。
「き、きみは」
「危ないところだったわ」
たきり姫が微笑む。
「助けてくれてありがとう」
青年も笑みを浮かべる。
「どうして櫂もない小さな船に?」
「八十人の兄たちに騙されたのです」
「まあ、酷いことをなさるお兄さま方ですね」
たきり姫が気の毒そうに見つめた。
すると青年はゆっくり上体を起こし、
「わたしは出雲の、おおなむち、と申します」
何事も無かったように明るく名乗るので、
「たきり、と申します」
姫も明るく返した。
「あなたが!」
「え、何か?」
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