僕に効く薬

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 その薬は、なんにでも効くんだって。  子どもの僕に自慢気に言っていた。  そんな旨い話があるのかな。  不治の死病だって言われてる病がたくさんあるのに。  けれどもし、それが本当なら。  この病に効くように、僕に薬をちょうだい。  僕が諦められるように、あなたが僕に、引導を渡して。 「ああー、そんなこと言ったっけな」 「うわ無責任だなー。僕が子どもだからってウソついたんでしょーう? ダメですよーう、純粋な子どもはなんでも信じてしまうんですからぁ」  あなたの言うことはすべて、僕にとっては真実で、この世のすべてだ。 ――また虐められてたのか。 ――お前すげぇな、天才じゃねぇか。 ――俺の前では、無理して笑わなくていいんだ。  あなたに言われたことで、僕が形作られていく。  父に見放され、姉に捨てられて、内弟子となった天然理心流試衛館では、女将さんにそう、“虐められている”。  周りに蔑まれてなんの役にも立てない、何者でもないカラッポの僕は、あなたの言葉でやっと、沖田総司という人間になった。 「どのクチが」  鼻先で笑ってから飛び切り憎たらしく言われるように、僕は純粋なんかじゃない。  あなたは僕を喩えて清い水鏡と詠んでくれたけれど、あなたが形作った傀儡に入った感情は、意図に反して醜い下心を持つようになった。  それを誰かに、あなたに知られる前に、すっかり治すことはできないだろうか。 「石田散薬の効能は、骨つぎに打ち身、挫き腕腰痛だ。つか処方箋袋に書いてあんだろ。何度もやってんのに見てねぇのかよ」 「しっかり書いてあるのに“どんな病怪我にでも効く万能薬だ”とか吹聴するオトナの方がどう考えても悪くないですかぁ」  本当に、この嫌味なくらい端正な顔から飛び出しているなんて信じられないくらいに口が悪いんだから。 「吹聴してねぇ。剣術バカのガキだから字も読めねぇだろと思ったお前にしか言ってねぇ」
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