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1 運命の日
ぼくのゆめは、プロやきゅうせんしゅでいちばんになることです。おかねをたくさんもらって、プロやきゅうかんとくになって、日本だいひょうかんとくになって、せかいいちになります!
かわせりゅうへい
◇
「リュウ君、来たっ! 指名入ったよ!」
晩秋の黄昏時。高校の部室で一人筋トレをしていたら、同級生でマネジャーの伊藤恵子が駆け込んできた。
「恵ちゃん、ホンマ? チームは?」
「タイガースの育成八位! 校長センセ、カズ君の会見終わったら会見するからすぐ来いって」
地元のタイガース。
うれしい。でも育成八位は微妙すぎる。
織原和彦との差は開くばかりだ。
織原、恵ちゃんとは幼なじみだ。全員両親が工場勤めで帰りが遅く、小学校では三人で日が暮れるまで野球をした後、三百円の屋台お好み焼きを食べ、カップ酒を飲むおっちゃんやおばちゃんとタイガース談議するのが日常だった。
中学になると織原の体はめきめき大きくなってエースになり、恵ちゃんは野球をやめ、線の細い僕は球拾い専門になった。中三の時、外野からの返球で地肩の強さが認められ、織原の控えの控えの控えの投手になったが出番はなかった。
高校で肉体改造しフォームを固め、三年夏に最後の一席でベンチ入りして数試合を投げた。織原は百五十キロを超える速球と滝みたいに落ちるフォークで、並みいる強打者をなぎ倒した。府大会決勝戦で全国優勝常連の私立に敗れたが、織原ワンマンの公立校では大健闘だった。
甲子園を逃しても織原の評価は鰻のぼり。全球団のスカウトが学校を訪れた。隣で練習する左変則投げの僕に何人かが目を留め、そっと調査票を置いていった。
そして運命の日。タイガースを含む六球団が織原を一位指名し、ジャイアンツがくじを引き当てた。
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