1 運命の日

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 制服に着替え即席の会見場に入ると、一斉にフラッシュがたかれて視界を失った。回復した視野で会見を終えた織原がちょうど席を立っていて、それでカメラが僕を向いていないことを知った。  織原は僕とすれ違うと、満面の笑みで肩を叩く。 「タイガースの育成八位だって? おめでとう。夢に近づいたな」  近づく? 冗談だろ。  お好み焼きを食べながら、恵ちゃんと三人で夢をチラシ裏に書いた記憶がおぼろげにある。織原の夢もプロ野球選手で、詳しくは覚えていない。 「河瀬とはライバルだな。これからもよろしく」 「ああ……ありがとう。織原もジャイアンツでがんばれよ」  織原は複雑な笑みを見せたが、すぐにカメラ慣れした笑顔に戻した。  いつから織原と僕の夢は、すれ違うようになったんだろう。  同じ夢を追い、同じスタートラインに立てた。でも、いくらがんばっても、あがいても、お前の才能には追いつけない。  プロ野球で一番の選手になる。そんな夢、織原といると無理とわかった。  僕が席に座るのと、カメラマンが競って会場から駆け出るのが同時だった。急に閑散とした部屋で白けた会見が始まる。 「えっと……河瀬君、ピッチャーでしたっけ? 織原君はジャイアンツの一位ですが、ひとことお願いします!」  僕の枕言葉は、織原か。  バツの悪い空気が流れる会見場の窓の外で、野球部員全員と恵ちゃんが織原を胴上げし、夕闇にまた盛大なフラッシュがたかれていた。
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