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「大事な球をいいのか?」
「河瀬だからさ。俺の夢を預ける。これからもよろしくな」
笑顔が嫌味に見えた。何がよろしくだ、心にもないことを。
正直、ボールはどうでもよかった。
試合は接戦で僕の出番はなく、織原が完封で二十勝目を挙げた。
翌日、また週刊誌に記事が載った。場外の炎上が広がるのを心配したジャイアンツは、日本シリーズの登録選手から織原を外した。
織原はシリーズが終わると会見を開き、美人アナとの電撃結婚を発表した。シーズン中の軽率な行動を謝罪し、
「それでも彼女と会いたかった。俺の一目ぼれでした」
とのろけ、逆に男としての株を爆上げした。
会見の晩、恵ちゃんから電話が入った。
予想通り、恵ちゃんは落ち込んでいた。
「カズ君、大阪にほとんど帰らんかったし、覚悟してたわー」
恵ちゃんを久しぶりに誘って、慰め役になった。
高校とプロで嫌というほど差を見せつけられた僕に、織原への嫉妬と、恵ちゃんへの下心があったことは否定しない。
三年後。恵ちゃんと家族だけの地味婚を挙げた。チーム関係者も野球部の仲間も呼ばなかったのは、織原に声をかけたくなかったからだ。
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