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3 同じマウンド
プロ十年目。タイガースは激戦のペナントレースを制し、久々の日本シリーズに進出した。
織原は酷使がたたったかここ数年で成績が急降下し、昨年は五勝八敗と初めて負けが先行した。ジャイアンツも低迷して若手強化の方針に切り替え、昨オフにイーグルスの若手投手二人と織原を電撃トレードし、マスコミを驚かせた。
その織原がイーグルスで復活し、タイガースに立ちふさがった。虎ファンには悪夢の巡りあわせだったが、織原を立てた第一戦と第四戦で攻略に成功し、シリーズは三勝三敗となった。
中継ぎ陣は総動員、僕は第七戦で急きょ呼ばれて甲子園に来た。見たくはなかったが、あの笑顔に話しかけられてしまう。
「河瀬。高校以来のキャッチボールしようぜ」
「アホか。虎ファンに殺されちまう」
織原は「はははっ」と屈託なく笑う。
「俺は何としても、きょう勝ちたい。夢だからな」
第四戦の後、スポーツ紙で「織原は日本シリーズの運がない」というトリビアが載った。シリーズで過去七試合投げたが好投報われず四敗。全盛期だった四年目シリーズは、女性問題で不出場だった。
「やっと同じマウンドに立てるな」
「僕が投げる展開なら織原は初勝利、夢の優勝投手だ。僕は負け試合要員だから」
織原は答えず、甲子園の広い青空を見つめた。
「俺は、ずっと河瀬が怖かったんだ」
ぽつりと、つぶやいた。
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