生まれガチャに胡座をかく人に鉄槌を

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 「血税を私利私欲の為に浪費した罪人」の場合、見知った顔が集められることもあった。そして、動画配信が開始された頃は、それまでの罪人達の関係が、視聴者達の前で明らかになった。気持ち悪い程の忖度に歯の浮くような褒め言葉。少ない食料を「地位の高かった人間」に渡し、くどいくらいに頭を下げる。そして、何も食べないままに、「下の立場だった人間」は閉鎖空間の調査をした。  罪人が幾ら探したとしても、脱出経路は悉く塞がれ、壁を破壊する道具など何一つ無かった。有るのは、罪人の身体と身に纏う服。そして、少な過ぎる食料だけだった。その食料も、脱出に使われることは無きよう、金属製の容器は与えられ無かった。また、手を加えれば道具に化ける物すら、罪人達には与えられ無かった。薄い紙袋に入れられたパンだけが、血税を私利私欲の為に使い込んだ罪人達に与えられた。  健康な大人であれば、食べなくとも一月は死なないと言う。だが、過度の空腹は、人間から余裕を奪う。人間の生存に必要な水分は、特定の位置に立つ時だけ、天井近くから僅かな量が流れ出る仕組みになっていた。しかし、その水分を摂取する行為は「今まで甘い汁を吸い続けてきた人間」にとっては屈辱でしか無かった。  比較的若い者達は、「何の役にも立たないプライドより、喉を潤すこと」を選んだ。食料で腹を満たせない分、彼等は水分で腹を満たした。基本的に、大人であれば若い方が体力はある。就いた仕事によっては、ろくに食べずに一日が過ぎる人間も居る。故に、数日間の絶食を課したところで、健康な大人であれば直ぐには倒れることもない。  そうして、罪人達への裁きが開始されてから数日が過ぎた。最も、罪人が集められた空間には時計はなく、窓も無いために時間の経過は殆ど判らなかった。唯一、食料が降ってくる時だけが、罪人に時間の流れを感じさせた。  「血税を無駄遣いし、仕事中にまで寝るような人間」も罪人として捕らわれていたが、何時でも寝られる様になってからは忙しなく動いていた。まるで、狭い檻に閉じ込められ、ストレスを溜め込んだ野生動物の様に、その罪人は同じ場所を歩き回っていた。  配信される動画は、時間が経つにつれて視聴率が低下した。数日が過ぎると、それは代わり映えのない動画となった為であった。ただ、食事の時間だけは、他の時間よりも視聴者が増えた。日を追う毎に食料の争奪戦は激しくなり、今までの上下関係など消えていった。甘い汁を吸い続けてきた人間が痛い目をみる程に、視聴者達は盛り上がった。  視聴者達が盛り上がった場面を纏めた動画は、高値で売れた。リアルタイムで視聴した側も、好みの動画を購入した。そうして得た資金で、罪人を捕らえておく施設の改修費は回収出来た。施設は、維持費やメンテナンス費用が掛かるものの、それも動画配信による利益で賄えた。罪人に与える食料は廃棄物のみで、処理費用を掛けるよりは安く済んだ。
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