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巡りの僧
夏の渡翼が近づく頃、ガジの村に巡りの僧がやってきた。
シシト国中を旅する巡りの僧が村に寄るのは、めでたいこととされていた。僧は村長の来客棟に通され、村ではニシャの枝が焚かれて祭りのような気配が漂った。
硬い肌に大樹のようなしわを刻んだ僧は、夏にまつわる縁起の良い話や天の国の逸話などを村人に語って聞かせた。両親に連れられて巡りの僧の話を聞きに行ったガジは、帰る前にそっと彼の座布団へと寄って尋ねた。
「僧都ペナンは、カムルランギの山のふもとにあるんですよね。天の民にも会えますか?」
「君は、天の民に会いたいのかい?」
僧は優しい眼差しをガジに向けて言った。
「残念だが、私も天の民には会ったことがないよ。渡翼の日に互いの空が繋がったからといって、彼らはそう簡単にシシトの地に降りることはない。カムルランギの中腹にある奥院では、稀に天の民を見るという話だがね」
「どうすれば、そこへ行けますか?」
「カムルランギは修行の地。僧以外は入れないよ」
そう言って、僧は目を細めてガジを見た。
「行きたいなら僧になるしかないが。君は両親や友達、生まれ故郷から離れてもなお、それを目指したいと思うのかい?」
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