巡りの僧

3/3

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 僧都(そうと)ペナンまで連れていってほしい、とガジが両親と共に改めて頼みに行くと、巡りの僧はじっと三人を見つめた後で言った。 「急な別れは強い後悔を残すだろう。もし一年後、君の気持ちが変わっていなければ、その時は私が責任を持ってペナンまで案内しよう」  それから一年、ガジは羊の番も両親の手伝いも一生懸命こなした。  来年になったら自分はこの村にいない。そう思うと、羊の背中も庭に咲く花も、しわの目立つ両親の顔立ちも。今まで見ていたものは全て、かけがえのないものだったのだと思わずにはいられなかった。  翌年の夏、約束通りやってきた巡りの僧と共にガジは僧都ペナンへ旅立った。  暖かな赤色の僧衣は、シシト国の大地を表す。それを身にまとう者は自らの使命を果たすために修行に励むのだ、と巡りの僧はガジに教えた。 「使命、というのは?」 「人は誰しも魂に刻まれた使命を持っている。自身を見つめ、それを果たすことによって、今生(こんじょう)の魂は磨かれ次の世へと繋がれる。僧になることを選んだ君にはきっと、そうしなければ果たせない使命があったのだよ」  僧の言葉を聞いたガジは、困ったように胸元にしまった鈴を握った。 (でも、僕はただ、鈴の君に会いたいだけで。……そんな理由で僧になろうとする僕に、一体何ができるんだろうか?)  僧都に着いたガジは、浮かぶ迷いを振り払うように修行を重ねた。  時間があれば書物にかじりついて勉強をし、僧院の掃除も、畑や山牛(ディー)の世話も熱心に行った。渡翼(わたり)の日に人々から持ち寄られた寄進の麦粉に深い感謝の気持ちを抱き、彼らの善意がカムルランギの(いただき)まで届くように心を込めて祈りの言葉を唱えた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加