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「ガジ、ここにいたか」
中院に着いて数日経った午後のこと。ガジが茶に口をつけていると、イザイがやや興奮した面持ちで声をかけてきた。
「秋の渡翼の前に、奥院から大僧正様のお弟子様が来られたんだ。あちらの支度が整ったら挨拶に行こう」
「私もご一緒して良いのですか?」
「ああ。これから何度も会うことがあるだろうし、慣れておいた方が良い」
「分かりました、準備します」
椀を空にして立ち上がったガジに、イザイは弾んだ声で言った。
「きっと驚くぞ、私も初めてフェルデ様にお会いした時は驚いたからな」
ガジは首をかしげたが、すぐに手と顔を洗って僧衣の帯を締め直した。
カムルランギの中院は山の斜面に沿うように建てられている。広く見目良く造られた地上の僧院とは異なり、外と中を何度も出入りするような入り組んだ構造をしていた。細い廊下は薄暗く、初めて訪れたガジには案内がなければ迷ってしまうほどの複雑さだった。
「フェルデ様、ペナンから参りましたイザイでございます」
ガジを連れて一つの部屋の前までやってきたイザイは改まった声を上げた。ガジにも分かった。そこは今までの部屋よりも手のかけられた、特別な者を泊めるための場所だった。
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