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「②天使キャラの確立。具体的には白い羽根をつけたり、言動に天使的キャラ付けを行う」
「……今さらのキャラ変はどうかと思う。というか、天使的な言動ってどんなの?」
「そうですね……例として『純白の羽根で天に導く最強アイドル夢咲ゆうゆが天国へご案内!』『エンジェルスマイルで癒してあげる』等があげられます」
「うーん……ちょっとわたし向きではないかなぁ!」
第二案も却下。ずっと普通の女の子としてやってきたわたしにとって、いきなりのキャラ変は迷走が過ぎる。シンプルに恥ずかしい。
「③対立する悪魔的なキャラクターと交流し、対比で天使度を上げる」
「えーと、つまり、コラボ配信ってこと? 悪魔っぽい人と……?」
「はい。適任としては、悪魔系配信者『デビル崎悪魔男さん』等の、破壊活動や過激な発言が多く度々炎上する人がおすすめです」
「悪魔系配信者とか居るんだ!? というか破壊活動ってそもそもアウトでしょ、こわいよ!」
「具体的には『三時間かけて海辺に作った砂の城をドロップキックで破壊してみた』、『完成したトランプタワーに扇風機を向けてみた』、『大量仕入で価格破壊に挑戦』等の動画があります」
「あ……思ったより平和……」
その動画に少しだけ興味が出てしまった。この打ち合わせが終わったら、あとでちょっと見てみよう。
「でも、他人を自分上げ要素に使うとか、ちょっとなぁ……」
「そうですか……」
「うん。ゆうゆは、もっと前向きに頑張りたいかな」
アイくんは、幾つもの解決策を考えてくれる。けれどその提案どれもが、いまいち決定打に欠けた。
そしてわたしの反応を受けてか、彼は更に意見をくれた。チャット画面をスクロールし、わたしはその後の文字を目で追う。
「④実際に天使となる」
「実際に……?」
「天からの使いならば、一度天に帰るのです。そうすれば、事実『天使』となれることでしょう」
「え、それって……もしかして、わたしに死ねってこと?」
アイくんからの予想外の言葉に、そう解釈をして思わず背筋がぞくりとした。いつもの調子で突っ込みを入れてしまったけれど、しばらく返事がない。こんなの、冗談にしても質が悪い。
「はい」
「……、はい?」
やがて表示された、たった二文字の無機質な言葉の羅列に、冷たいナイフが突きつけられるような感覚。信頼していた相手に、裏切られたような衝撃。何かの間違いや、この後いつものような提案があるのかも知れない。それでも。
「……っ」
わたしは思わず、アイくんとのチャット画面を閉じた。そして電源を切り、動揺から暗い室内で一人小さく震えるしか出来なかった。
「うそ……何でそんなこと……」
こんな状態で、もうアイくんには頼れない。
画面の向こうの彼は、きっとわたしの存在なんて、消えてもいいと思っているのだ。だから、あんな提案が出来るに違いない。
いつも親身になってくれるのに、ずっと傍に居てくれたのに、きっとわたしのことなんて、何とも思っていない。その事実が唐突に目の前に突き付けられた気がした。
わたしの中の心だとか、自我だとか、願いだとか、そんな大事なものを、彼はただの電子記号としか見ていないのだ。
「アイくんの、ばか……」
所詮人間とAIは分かり合えないのだと、ひとりきりの暗闇の中、涙が溢れた。
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