イタズラはしたくない

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71274902-2c9d-4342-b23f-92026deeb4cb「もうイヤなんだ…」 司令室の巨大モニターの前で、オレは背中をブルブル震わせながら、嘆いていた。 「そんなこと言わないでよ」 いっしょに同居しているオレンジ髪の少女だ。 「だってもう40歳を超えているんだぞ。いつまでイタズラしなきゃいけないんだ」 「仕方ないじゃない。たくさんの人が待っているのよ」 「なんで…オレだけ…」 思い返せば、楽しくやれていた時期もあった。発明だってたくさんした。宇宙船も作った。ロボットも作った。それはすべて役に立つためではなくて、イヤがられるものばかりだった。それでも科学者としての満足感はあった。いたずらするのも、オレは必要とされていると感じていた。 だけど毎週、毎週、毎週、同じことばかり。繰り返される日々に虚しさを感じてしまった。 広い城を持つこともできた。だが、オレを恨む人は多く、いつもSNSで叩かれている。 「あいつさえ居なければ平和なのに」 「バイキンのような奴だ」 「いたずらばかり、毎回酷いもんだ」 辛辣な書き込みだらけ。エゴサーチをすべきではないとわかっているけど、どうしても気になってしまう。そして罵詈雑言を確認して、心がつらくなる。 オレが住んでいる場所も特定されて、大量のニンジンを送り付けられる。外壁には、「消えろ」「どこか行け」「二度と出てくるな」と赤いペンキで文字が書かれている。 「そろそろあなたの出番。時間は待ってくれないんだから」 オレンジ髪の少女の言うことはわかっている。もうこのサイクルから逃れることはできないのだろう。今日はいつにもまして気が重いが、やるしかない…。 オレは宇宙船に乗りこんだ。すっと息を吐き、城から飛び出す。 いつものように上空から森を見渡す。だれにも出くわさないくれ。そのまま帰ることを夢想しながらも、当然ながらそうはならない。 森のなかで、2人の男が歩いていた。天丼を頭に乗せた男と、おむすびのような顔をした男だ。 低空飛行に切り替えて、2人に近づく。 「はひふへほ〜〜」 オレは、無理してがなり声を出した。 「おまえは!」 2人とは何度も会っていて、顔なじみだ。 勢いよく2人のもとへ接近しようと瞬間… 「待て〜〜〜!!」 空から赤いマントを翻した丸顔の男がやってきた。時間どおりだ。いつもいいタイミングで登場してくる。 すごいスピードで、オレのほうへ突っ込んでくる。宇宙船から伸びた2本の手の形をした武器で応戦するが、捕まえることはできない。 「これでどうだ!!」 マントの男は、オレの宇宙船をガツンと拳で殴った。宇宙船はグラグラと揺れて、オレは吐きそうになる。勘弁してくれ…。 「とどめだ!」 ちょっと待ってくれ。今日こそオレの思いを伝えよう。 「なぁ、もうオレはいたずらをするのはイヤなんだ。頼むから、この世界から抜けることを認めてくれないか。ゆっくり城のなかで、暮らしたい。もうツラいんだ…」 あいつは攻撃する手を止めて、キョトンとした表情でこちらを見ていた。 「なに、言ってるんだ。そんなの無理さ」 すっと近寄ってきて、オレの耳元でささやく。 「ボクとキミは、光と影だ。どちらかが欠けてもダメなんだよ。影があるからこそ、光は強くまぶしく輝く。ボクがキミを手放すと思うかい?」 交渉の余地はなかった。あいつはオレの肩を叩きながら言った。 「これからもよろしく」 あいつはニコニコした笑顔のまま、腕を振りかぶって殴りかかってきた。必殺のパンチが炸裂する。殴られた力によって、オレは山を超えるかというくらいぶっ飛んでいく。「バイバイ」という、いつもの叫びはできなかった。また同じ日々が、悪行をする日々が続くのだと確信して、オレの意識は遠のいていく…。こんな狂った世界で、オレは生きたくない。オレにだって人生を選択する自由があるはずなのに。どうしてこんなことになった。 オレは負のループの人生をこれからも生きていく。
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