優しい観客と万雷の残響音

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在校生送辞。 水原くんが壇上に立つ。 彼は演劇部にも劣らない張った声で話し出した。 「送辞。  やや雨がちらつく寒い日となりましたが、式が終わる頃にはそれも止み、明日にかけて気温も上がっていくようです。  じきに咲く桜も、厳しい寒さがあってこそ美しくなると言われています。(あい)(にく)の雨と寒さですら、先輩方の明るい未来を暗示しているようです。  三年生の皆様、本日はご卒業おめでとうございます。  在校生一同、心よりお祝い申し上げます」 水原くんは澱みなく滑舌良く、典型的に優秀な送辞を続けた。だけど強くて熱い心が込められていて、型に嵌まった言葉でも、熱量が高ければ美しく聞こえるのだと教えてくれているようだった。 「最後に、卒業生の皆様のご活躍とご健康を祈り、送辞といたします。  平成27年3月3日。  在校生代表 水原修吾」
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