優しい観客と万雷の残響音

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2015年3月3日。 (あさ)()先輩たちは卒業式を迎え、あたしたちは二年生としてそれに参加した。 在校生送辞は、生徒会長の(みず)(はら)(しゅう)()くん。 卒業生答辞は、元生徒会長の麻美先輩。 誰からも異論はなく、むしろ完全な既定路線。そもそも当時の校内カーストでも、この二人以外に選ばれる理由がなかった。 午前九時半、司会の主任先生が開会を宣言し、その後に卒業生入場、あたしたちは丁寧な拍手で先輩方を迎えた。 国歌・校歌斉唱。歌わない人も数人いたけど、事前に水原くんが歌う理由を話していたから、みんな結構ちゃんと歌っていた。 卒業証書授与は、クラス順の出席番号順。それぞれの担任先生が名前を呼びあげた。あたしたちは壇上を見つめ、親しい先輩のことを目で追ったり、心の中で拍手したり。思い出を辿りながら、飛び立っていく姿を目に焼きつけた。 そして、麻美先輩の名前が呼ばれた。 あたしたち在校生は、一年生も二年生も問わずに大きく拍手した。先生たちが慌てだす。特定の先輩に対して全員が示す敬意を逆に不敬だと睨んでくる。他の先輩方に失礼なのは誰もが理解していた。でも麻美先輩に抱く思いは、感謝なんかじゃ済まなかった。 先輩方も拍手していた。不快感を持つ人は、見る限り一人もいないようだった。
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