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「でもさぁ……パパって、昔からあんなだった訳じゃないでしょ? 出会った頃は、それなりに格好良かったんじゃないの?」
行儀悪くテーブルに頬杖をついて、父親を眺める。細い目に、大きな鼻、だらしなく半開きになった唇からは、特徴的な前歯がチラリと覗いている。人相を構成するパーツのバランスが悪い。オジサンというハンデを除き、身内の贔屓目を加えても、イケメンからは程遠い。
「さあねぇ。どうだったかしら」
はぐらかしてみるが、言わずもがな。娘よ、察して頂戴な。
「ね、ママ。どうしてパパと結婚したの?」
「なによ、今更」
ところが、今日に限って、なかなか追求を止めてくれない。
「理麻がね、最近『悠麻と結婚する』って言うようになったの。あ、もちろん、あの年頃の子どもが『異性の親と結婚する』とか言うのは、発達的に普通のことらしいんだけど」
悠麻さんは、娘婿。この子には、勿体ないくらいのしっかりしたダンナさんだ。キリリと涼しげな眼差しは、少しドーベルマンに似ている。
「そうねぇ。圭二もそんなこと言ってたわね」
20年近く昔の記憶だから不確かだけれど、息子の圭二は、私にベッタリくっついていた時期がある。『ママと離れるから、幼稚園に行きたくない』と玄関で泣かれたことが懐かしいなぁ。
「うん。でも、私、パパと結婚とか言わなかった気がするのよね」
一方、理夏が夫にベッタリだったという記憶はない。ちょうど物心付いた頃に弟が生まれて、彼女の関心は小さく不思議な生命に向けられた。そんな影響があったとはいえ、彼女と夫が2人だけで「お出掛け」したなんてことは、なかった気がする。
「パパって、子どもの私から見ても、格好良くなかったのかしら」
「あんた、それお父さんの前では」
「分かってる。言わないわよ。でもねぇ……」
娘は、腑に落ちない顔で海苔アラレをパリパリと噛んだ。ソファから「フンガッ」と、盛大な鼾が聞こえてきて、彼女は深ーく溜め息を吐いた。
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