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ー2ー
ずっと、付き合うなら、猫科の容姿の男性がいいと思っていた。
鼻筋がスッと通り、つり目が凛々しくて、もれなくイケメンの部類に入ると思うからだ。
幼稚園で初めて恋に落ちたトオル君は、毛筆で描いたような涼やかな眉が印象的で、近所の日本猫にそっくりだった。
小学校3年生の頃、手を繋いで帰った宮田君は、真っ黒に日焼けした野球少年で、少しヤンチャな黒猫に似ていた。
中学校の時に憧れた上村先輩は、陸上部の短距離走のエースで、キリッとシャープなチーターのようだった。
高校時代に初めてキスした同級生の小杉は、癖毛がワイルドで毛深く、長毛のノルウェージャンフォレストキャットを思わせた。
大学2年生の夏、初体験を捧げたデヴィッドは、英会話スクールの講師で、高貴なホワイトタイガーの如く高級スーツの似合う英国人だった。
そして、社会人になった32年前。直属の上司だった独身の若林課長は、眼鏡の奥のキツネ目が鋭く、仕事の出来る切れ者だった。
当然のように私は、甘い想いに胸を焦がしていた。バレンタインデーには、気合いを入れて高級輸入チョコを奮発したし、給湯室で入れるコーヒーも、彼にだけワンランク上の豆をこっそり使っていた。
ところが――入社して、4年目の春。
1年後輩の加納杏子と、課長は結婚した。彼は、リスのようにクリッと瞳が大きく、ちょこまかと良く働く私ではなく――眠たそうなタレ目の、タヌキみたいなホンワカした女の子を選んだのだ。
『あー、私事で恐縮だが、この度、加納君と入籍する。来年、子どもが生まれるんだ』
部署内の飲み会の席で、キツネ目の周りを赤く溶かして、課長が電撃報告をした。かなり本気だった私の片想いは、あの夜、無惨に砕け散ってしまった。
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