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ー3ー
今から28年前の6月14日。
その日は、朝から散々だった――。
まず、前日までの予報が外れて雨が降り、着て行く予定だった新しいワンピを取りやめる羽目になった。大慌てでクローゼットから地味なブルーストライプのシャツブラウスと、リブ丈のキャメルのパンツを選んだ。オープントゥの白いパンプスは、ショート丈のレインブーツに変え、傘を手に家を飛び出した。
乗り込んだバスは、雨のために普段見掛けない乗客が多く、お陰でいつも座る席が埋まっていた。車内は立ち位置の争奪戦になって、終点の市電駅前を降りた段階で、相当疲れていた。それでも、満員電車に揺られて、なんとかいつもの時間にロッカールームに着いた。
制服に着替えて、始業の準備に取りかかっていると、先輩の箕輪さんが青ざめたシベリアンハスキーの形相で入って来た。朝一番の会議に使う資料のデータが間違っているというのだ。
「桑江さん、PC立ち上がってる? 先月のリサーチデータって、すぐ出る?」
「あっ、はい! 今、出します!」
「よし、それじゃ、グループAからDまでの集計出して!」
「はいっ!」
始業前のお茶の準備も、メールチェックも、何もかも素っ飛ばして、資料の作り直しと差し替えに奔走した。
「全く、今日は仏滅じゃないのぉ?」
いつもは10時までに終わるメールチェックがお昼までズレ込んだ。遅れて駆け込んだ社食では、OLに人気のヘルシーメニューは既に完売、定食も私の3人手前で売り切れになった。残りは重い丼物か、やはりヘビーなラーメンしかなかった。
「おばちゃん、軽いものってないの?」
「そうねぇ。サラダならあるよ」
「あ、じゃ、それでいいわ」
「ゴボウとポテトとカボチャとマカロニとグリーンがあるけど?」
「え? えーと、グリーンサラダをお願いします」
知らなかった。ウチの社食って、そんなにサラダのバリエーションがあったのね。
迷って面倒になり、最後に聞いたサラダで手を打つ。カップヨーグルトをデザートに加えて、お昼を終えた。
雨上がりの午後、郵便局までお使いに行く。本来なら、後輩の加納さんの仕事だけど、彼女は退職前に有給休暇を消化しなければならず、今日はお休みなのだ。
いい気なものよね。
水溜まりを避けながら、溜め息を溢す。今日みたいに朝から忙しい日に、彼女はのんびり朝寝坊出来たし、優雅にブランチだって出来たのだ。挙げ句、夜には愛しの課長からラブラブのメールなんか貰うに違いない。
「やだわ、まだ引きずってるのかしら」
彼女の有給休暇は、労務担当の指示に従っただけなのだから、これは単なるやっかみだ。
「すみませーん、この先、通り抜け出来ませーん! 迂回してくださーい!」
郵便局の看板が見えているのに、行く手をヘルメットを被った交通誘導員が塞いでいる。マンションの外壁が剥がれて、歩道に落下したとかで、ポールを立てて通行禁止にしているという。
本当に、今日は仏滅なんだわ。
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