0人が本棚に入れています
本棚に追加
山の中の出会い
清の時代、一人の若者が、今の吉林省白頭山の麓で道に迷い、虎に出くわした。
「うまそうだな」
虎は舌なめずりをする。若者は腰を抜かして動けなくなった。
「おい、早く服を脱がせろ。食いにくいじゃないか」
虎が振り向いて怒鳴ると、一人の女がおどおどと虎のあとから現れた。
その女の美しさに、若者は殺されるのも忘れて見とれてしまった。
女もまた若者を見つめ返した。
虎に急かされ、女が若者の服を脱がせると、虎は若者を食おうとそばに寄ってきた。
その時、「逃げて!」女は叫んで若者の着ていた着物を虎の頭にかぶせて、押さえ込んだ。
虎が着物を取ろうともがく隙に、若者は一目散に山を降った。
後ろで虎のうなり声と女の泣き声が聞こえる。
「ごめんなさい。あんまりあの人が若いから、可哀そうになって。次からはちゃんと働きます、許して……」
若者は命からがら家に逃げ帰ると寝込んでしまった。恋煩いだった。
虎の連れていた女に一目惚れしたのである。
話を聞いた母親は「お前、それは悵鬼だよ。虎は食べた人間の幽霊を、そうやって召使いとしてこき使うんだ。そんな女に惚れたってどうしようもないじゃないか、他に女はいっぱいいるよ。
早く忘れて元気なお前に戻っておくれよ」
けれど若者は何も食べずにどんどんやつれていく。もう自分は死ぬのだと思ったその時、若者はあの女と一緒になれる方法を思いつく。
若者は飛び起きると勢いよく食べだした。食べて、食べて、食べ続けた。
元気になったと喜ぶ母親はやがて青ざめた。若者は食べるのをやめない。
家中の食べ物を食べながら、お祭りに出される豚の丸焼きのような姿になっていった。
ついに家中の食べ物を一つ残らず食べ尽くすと、若者はまた白頭山に登っていった。
虎と女はすぐに現れた。女は様変わりした姿に、あの若者と気がつかず、虎のため若者の服を脱がせた。
そうして虎は若者を食べた。
最初のコメントを投稿しよう!