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うまく行った、しかし……
食われながら、若者はうまくいったとほくそ笑む――
狙い通りにことが運んだからだ。
あの時、男は考えた。
「恋しい女が悵鬼ならば自分も悵鬼になればいい。どうせこのまま死んでしまうのなら」
でも虎の召使いになるのはつまらない。
女も自分も自由になるには虎を殺すしかない。
だから若者は体中に毒を塗って、生き餌として虎の前に現れたのだ。
やがて毒が効いて虎は死んだ。
「これでこの女と一緒になれる」
悵鬼になった若者は女に近づいた。
だが女は恐れて後ずさる。
無理もない、若者には首がなかったのだから。
虎が首を食べる前に毒が回って死んだので、首だけ悵鬼になり損ねたのだ。
首がなくては、しゃべることもできない。
女のために考えた愛の言葉も伝えられない。
女はおびえて逃げ出した。若者は慌てて後を追う。
その時、別の虎が通り掛かり
若者の残った首を食べてしまった。
その虎は毒の量が少なくて生き延び
若者の首はその虎の悵鬼となった。
以来白頭山の山奥では
泣きながら愛の言葉を並べ立てる、首だけの悵鬼を連れた虎と、
首のない幽霊に追いかけられて
逃げ回る女の幽霊が出るようになったと伝えられている。
公募ガイド/小説でもどうぞ6回2021年1月投稿(お題・恋)
【後書き】
二十代の頃、ジュブナイル物の草分け的雑誌“獅子王”に投稿して落選した話。アイデアは気に入ってたけど、こう言う残酷な話は受けが悪いんですよね。
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