そらのひがし

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暗い木立の中を行くと、道はまた小川を横切っていた。 そこには橋も飛び石もない。 ぼくはハナちゃんに続いて、軽く助走をつけて川をとびこえた。 川のほとりには大きな白い石がある。ハナちゃんはそこに静かに座って、それから何を思ったのか、いきなり靴と靴下を脱いで、足の先を小川にひたした。水面には午後の日が映ってキラキラ光っている。ちょうど銀の粉をまぶしたみたいで本当にきれいだ。ぼくはその素朴な輝きに見とれる。 「ねえ、知ってる? 空の東には何があるか?」  不意にまたハナちゃんが言う。  ハナちゃんは石の上に座ったまま足をぶらぶらさせながら、じっと足もとの水を見ている。ぼくもしばらく同じ場所をながめてみる。でも、そこに答えはない。その銀に光る水の上には、空の東についての答えは書かれていない。 「知らないし、わからない。見当もつかない」 ぼくはため息をつく。それから試しに言ってみる。 「でもたぶん、空の東にはまた空があって。その東にもまた空があって。けっきょくどこまで行っても何もない。あるのは空だけ。そうじゃない?」  ハナちゃんはそれには答えない。ただ黙って、じっと足もとの水を見ている。  ぼくはふと悲しい気持ちになる。 そうだ。 ぼくはきっとまた答えを間違えたんだろう。 もっと別の言葉を、返してあげるべきだったんだ。 そこにはきっと、もっとふさわしい答えがあって、ハナちゃんはずっと、その答えがそこに投げられるのを待っていたのかもしれない。そうなのかもしれない。 でもぼくは、いとも簡単に間違えてしまう。 間違った言葉、間違った答え。チャンスはたったの一度きり。 ぼくには二つ目の答えを口にするチャンスはなく、そう、そんなチャンスは、もう二度とめぐってくることはなく…… でも、じゃあ、何が答えだ?  空の東には何がある?  空の東には何がある? そもそも何なんだろう、空の東って?       ψψψ     ψψ     ψψψ
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