霜の降りた道程の先にあるものは

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 二人は少しでも体温低下を防ぐために亀のように丸まり全身を擦り合わせていた。 すると、閉じた筈の扉が開く鈍い音が聞こえてきた。 これでは吹雪が山小屋の中に入って来てしまうではないか。大原は震える体を押して立ち上がり、扉を閉じに行くことにした。体を起こした瞬間、信じられないものを見た。 なんと、扉の前に純白の打掛を纏った美女がいるのである。ただ、目つきは鋭く「冷たい女」としか思えない顔をしていた。 「うあああああーっ!」 大原は美女の姿を見た瞬間に悲鳴を上げてしまう。加藤も慌てて起き上がりその姿を確認し、歯がガチガチと震える口を強引に押さえ込みながら叫んだ。 「お前は誰だ!」 美女はニッコリと微笑みながら、(おもむろ)に口を開いた。 「あたしは雪女」 大原は震える声で笑った。 「な、なに? 近頃の山岳救助は小泉八雲の雪女のコスプレのサービスでもしてるの? 悪いんだけど、こちとらガチで寒くてヤベーんだけど? こう言ったおふざけは……」 雪女は大原の全身を舐めるように眺めた。大原は小太りの体格をしており、頬にもボツボツとニキビがビッシリ、スノボゴーグルの向こうに見える目は一重瞼の細目…… これらを確認した雪女は渋い表情を浮かべながら溜息を()いた。 それから、床の上を滑るように大原の元へと向かい、両手で両頬を覆った。 大原は雪女に覆われた両頬を冷たく感じ、悲鳴を上げてしまう。その両手は素肌で触れたドライアイスそのもので、冷たさを通り越して「痛さ」に変わった。 そして、雪女は大原に口づけを交わした。大原は雪女の柔らかくも冷たい唇の感触を覚えた後、冷たい水を飲んで心臓が痛くなる心房細動と同じようなものを感じた後、全身が冷たくなっていくことに気がついた。 もう、この時点で大原の命は絶たれていた。雪女は冷たく青ざめた死体と化した大原をゴミでも投げるかのように床にポイと倒した。 加藤は倒れた大原を抱き起こすが、全身がマネキン人形のように固まっており、関節の可動や筋肉の柔らかさを感じることは出来なかった。 「おい! 大原! 大原! 手前(てめぇ)! 何をした!」 雪女はおほほほと高笑いを上げた。
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