霜の降りた道程の先にあるものは

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輪廻転生は仏教思想で、千曳の岩は神道思想、どうやら死後の世界は神仏習合のもののようだ…… どうなってるんだよ…… 死後の世界…… と、加藤が考えたところで意識が途絶えた。それから、暫くの無が訪れた後「起きろ!」「大丈夫か?」などの荒々しい声が遠くから聞こえてきたところで目を覚ました。  加藤は山小屋まで訪れた山岳救助隊に救助された。その時に、山岳救助隊の男に尋ねた。 「あの? 大原は…… 横に倒れていた友達なんですけど」 山岳救助隊は沈痛そうな顔をしながら俯いた。 「済まない…… 手遅れだったよ…… 関節も曲がらないぐらいに全身が凍りついていたよ…… もう少し早く我々が来ていれば…… ううぅ……」 「あ、あの! 実は……」 大原は雪女に凍らされた。加藤がその言葉を発しようとした時、雪女と交わした約束の言葉が頭の中に過ぎった。 「そうです。ただ、雪女には決まりがありまして、あたしが見初めた男…… つまりあなたになります。あたしのことを誰かに話したり、他の女を好きになったりしたら、殺さなければならないのです。でも、あたしとしてはあなたを殺したくないのです。だから一緒に山から降りて妹背(いもせ)になり、共に白髪の生えるまで過ごしとう御座います」 つまり、この時点で山岳救助隊に雪女のことを話しても殺されるということである。せっかく救助されたのに、ここで殺されては世話がない。 加藤は雪女のことを言いかけたところで貝のように口を閉じてしまう。 「あの? 何か?」 「いえ、何も……」 加藤が担架に乗せられようかと言う時、部屋の隅に雪女の姿を見た。 雪女はと言うと「そうだ、これでいい」と言いたげな冷たい笑みを浮かべながら加藤の姿をじっと眺めているのであった……
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