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さて、山岳救助隊に救助され山を下りて街へと戻った加藤は雪女との甘く冷たい日々を過ごすことになった。雪女であるが、人間の言う移動の概念が通用しないのか神出鬼没。加藤の行くところどこにでも姿を現すのだ。他の人間には見えていない。雪女の姿は加藤にしか見えないのである。
加藤があの雪山の夜のことを友人に話そうとすれば、いつのまにか傍に雪女がいて冷たく寂しい目でジーッと見つめるのだ。勿論、「喋れば殺す」と言う脅しである。
加藤はその甘いマスクから言い寄る女性も多いが、雪女に殺されたくないためにその一切の相手をすることはない。
助けを求めることも出来ず、好きになった女性がいても諦めざるを得ない。
加藤は女旱の霜が降りて凍りついた人生の道を雪女と二人往くのであった…… 自殺も考えたのだが、輪廻転生が実在する以上、人に食われる獣や、人に潰される虫螻に転生する可能性があり怖くて出来なかった。それ以前の話、地獄に堕ちての苦役を受けたくないと言う思いの方が強かった。
加藤が雪女に冗談交じりに「地獄はあるの?」と、聞いてみたところ「ある」と断言され、聞いているだけで耳を塞ぎたくなるような地獄の苦役を嬉々としながら語りだした。
言葉による地獄巡りが終わった後、雪女は「あたしから逃げようと考えて、自殺したらあなたがこうなりますからね? ちゃんとあたしと添い遂げて大往生すれば『善行』になりますから、四十九日の間の十王の裁判も地獄に落ちぬよう考慮してくれるやもしれませぬよ? そうそう、地獄行き待ったなしの盗賊も、逃亡生活中に草の陰にいた芋虫を助けただけで人間に転生出来たと言う話もありますよ?」と、釘を刺すのであった。
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