霜の降りた道程の先にあるものは

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 加藤は雪女に対する愛なぞ微塵もない、寧ろ親友の大原を殺した不倶戴天の(てき)である。優しく温かい人間(おんな)(ぬく)もりを希求するのだが、雪女との約束がある以上はそれも叶わない。 このまま、冷たい雪女(おんな)凍結(こおり)の牢獄に閉じ込められたままなんて嫌だ! そんなことを考えながら生きるある日のこと、偶然受講した民俗学の講義で教授から興味深い話題を聞くのであった。 「皆さんもよく知る雪女の伝説ですが、全国各地に流布しております。室町時代の新潟には既にあったとされています。主に東北の雪国に伝わっている話ですね。長野県では子供を攫う妖怪として恐れられ、福井県では雪の日に崖から谷底に突き落とす妖怪とされています、小泉八雲の有名な怪談雪女も舞台は東京の青梅の山中です。実は南国にも雪女の話はあるんですよ…… 話としては小泉八雲のものとほぼ同じです。どうしてこのような話が全国に伝わっているのか不思議ですね」 その不思議に常時付き纏われている俺は何なんだよ…… 加藤は頬杖を突きながら舌打ちを放ってしまった。 「先生も全国の雪女の話を調べてみたのですが、一つだけ異彩を放つ話がありました。雪女に見初められた男が、雪女を殺す話です。皆さんは南総里見八犬伝に出てくる『村雨』と言う刀をご存知でしょうか。ゲームや漫画やアニメにも出てくるので、出典先は知らなくても名前ぐらいは知っていると思います。常に水に濡れて血を洗い流すという刀です」 言わずと知れた架空の刀である。一体、その刀と雪女がどう関係するのだろうか。加藤は教授の話に耳を傾けた。 「某県に村雨神社と言うものがありまして、その近辺だけに伝わる雪女の話です。男が雪山で遭難し雪女に見初められると言う点は小泉八雲の怪談と同じです。しかし、男には心に決めた女性がおり、雪女に見初められるなどあってはならない。誰かに相談も出来ない、心に決めた女性と結ばれることも出来ないと、八方塞がりでした」 今の自分とほぼ同じ状況じゃないか。加藤は苦笑いを浮かべてしまった。 「男はある日、村雨神社の宮司に『いい歳して独身』であることを責められたのです。男には『雪女に見初められて、約束を破れば殺される』と言う言い分もあるのですが、それを言うことも出来ませんでした。しかし、その宮司は神職にもかかわらず口が悪くて、うっかり男の逆鱗に触れてしまったのです。 男は激昂し怒鳴るように雪女の話をしてしまいました」 この時点で男は約束を破ったことになる。しかし、この話は「雪女を殺した話」だ。加藤はその先が気になって堪らないのであった。
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