霜の降りた道程の先にあるものは

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「ギャアアア!」 断末魔! 雪女はこの世のものとは思えない悲鳴を上げた。袈裟斬りの傷からは溶けた雪のような液体がダラダラと垂れ、床にポタリポタリと落ちていく…… 「体が…… 溶けるように…… 痛い……」 効果は抜群だ! 雪女は不条理な理由で男を殺すヤツだ! 存在そのものが男の敵だ! これまで何人凍らせて殺してきたのかは知らないが、そいつらの(かたき)を討ってやる! 加藤は雪女の心臓に村雨を突き刺し、念入りにグイグイと抉った。切っ先が突き出た背中からはスノーマシンが雪を吹き出すかのように、雪が勢いよく吹き出していた。 雪女は這々の体になりながらも加藤に対する愛を囁きかけた。 「こんなにも…… 愛しているのに…… どうして…… こんなことを……」 愛していようが、いよまいが、雪女の決まりに人間(おれ)を巻き込んで殺しに来る時点で純然たる悪だ! 知ったことか! 加藤は村雨を突き出し、雪女を床に倒した。 雪女は天を仰ぎ倒れながらも、愛しい加藤の顔を見つめながら涙を流した。 「あたしは…… これでさよならです…… 来世では一緒になりま……」 いい加減にして欲しい。加藤がそう思った瞬間、雪女はその身を溶かし水と化した。 その水もいつのまにか霞のようにフッと消えていた。本殿の床が濡れた形跡は微塵もない。 床に突き立った村雨は雪女の雪の体で一気に錆びたのか、見るも無残な錆刀へと姿を変えていた。加藤が村雨を引き抜こうとした軽い衝撃だけで、ポキンと木の細枝のように折れてしまった…… 加藤は雪女から開放された…… 試しに雪女のことを誰かに話しても、女性を好きになっても雪女が現れることはなかった。
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