クラス委員な2人

3/5

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「なんだか面倒くさいことになったな」  俺は2階の廊下を歩きながら、窓の外に目を向ける。  眼下では、楽しそうに下校していく、同級生とも先輩とも知れない生徒たち。 「天乃――さん、は大丈夫?」 「天乃でいい。私も地村と呼ばせてもらう」  天乃は凜とした表情で俺に言う。それから眼鏡の奥の目を細め、 「大丈夫かというのは、なにに対して言っている? それによって、返答は変わる」 「ああ……それは……」  口ごもる俺に、天乃はふっと息をつき、 「中身のない会話を続けても大丈夫かと言えば、大丈夫ではない」 「なっ……」  俺が若干ムキになったのを察したかのように、天乃は薄く口元に笑みを浮かべ、 「ムキになるな。冗談だ。出会って間もない私たちにとって、中身のない会話こそ、必要なことだろう」 「えっ、あっ、ああ」  思わぬ返答に、それはそれで戸惑いを覚える。  彼女はそれから、 「クラス委員になったことに関しては、特に気にしていないと言っておこう」  と続けた。  俺は力んでしまった肩を解きほぐしながら、 「凄いな、天乃は」 「なにが凄いのかわからないのだが?」  天乃は腕を組んで俺を見上げる。  俺は、眉間を人差し指でかきながら、 「状況をきちんと受け入れられて、凄いなってこと」 「そうか? 受け入れる受け入れないという前提が、まず間違っていると私は思う。受け入れたからといってどうなることでも、もしくは受け入れないからといってどうなるものでもないだろう?」 「いや、確かにそれはそうだけどさ」 「ならば、そこを考えることはおかしいし、時間の無駄ということだ。ただ――」  彼女は少しずれていたのだろう、眼鏡の位置を直し、 「自分があんなにジャンケンが弱いとは思わなかった」  そう悔しそうに唇の端を上げた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加