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「なんだか面倒くさいことになったな」
俺は2階の廊下を歩きながら、窓の外に目を向ける。
眼下では、楽しそうに下校していく、同級生とも先輩とも知れない生徒たち。
「天乃――さん、は大丈夫?」
「天乃でいい。私も地村と呼ばせてもらう」
天乃は凜とした表情で俺に言う。それから眼鏡の奥の目を細め、
「大丈夫かというのは、なにに対して言っている? それによって、返答は変わる」
「ああ……それは……」
口ごもる俺に、天乃はふっと息をつき、
「中身のない会話を続けても大丈夫かと言えば、大丈夫ではない」
「なっ……」
俺が若干ムキになったのを察したかのように、天乃は薄く口元に笑みを浮かべ、
「ムキになるな。冗談だ。出会って間もない私たちにとって、中身のない会話こそ、必要なことだろう」
「えっ、あっ、ああ」
思わぬ返答に、それはそれで戸惑いを覚える。
彼女はそれから、
「クラス委員になったことに関しては、特に気にしていないと言っておこう」
と続けた。
俺は力んでしまった肩を解きほぐしながら、
「凄いな、天乃は」
「なにが凄いのかわからないのだが?」
天乃は腕を組んで俺を見上げる。
俺は、眉間を人差し指でかきながら、
「状況をきちんと受け入れられて、凄いなってこと」
「そうか? 受け入れる受け入れないという前提が、まず間違っていると私は思う。受け入れたからといってどうなることでも、もしくは受け入れないからといってどうなるものでもないだろう?」
「いや、確かにそれはそうだけどさ」
「ならば、そこを考えることはおかしいし、時間の無駄ということだ。ただ――」
彼女は少しずれていたのだろう、眼鏡の位置を直し、
「自分があんなにジャンケンが弱いとは思わなかった」
そう悔しそうに唇の端を上げた。
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