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空は晴れている。暑くて身体がひりひりする。
梅雨明けしたんだっけ。
私は外の空気を感じたくて、河川敷にある公園に来ている。ベンチに座りただぼんやりと川や公園で遊ぶ人々を見ている。
みんなそれぞれの生活を楽しんでいるのだろうか。
笑顔でボールを蹴っている少年。お茶を飲みながら会話をしているカップル。井戸端会議をしている主婦。公園にはフワフワとした空気が流れている。
私はこの場所には相応しくない人間だ。
さて、どこか別の場所を探そう。私は立ち上がり歩き出した。どこへ行くとも決めずただただ暑い日差しを感じながら街を歩く。このまま氷みたいに解けてお天道様に吸い込まれてしまえるかしら。
そしたらきっと楽になれるはずだ。
私は今悩みを抱えている。それは容姿の事だ。
幼い頃親は私にかわいいと言っていた。私は勘違いし自分は普通の顔をしていて、普通だと思って過ごしていたのだ。でも、ある日友人だった人が私のことを「馬に似ている。」と言ったことがきっかけとなり私は馬面に悩み始めたのだ。友人だった人たちは、私を馬鹿にし始めた。馬と一緒にいると臭くなるとか、前から気持ち悪いと感じていたとか、手のひらを返すように私に悪口を浴びせてくる。
私は悪口をまともに受け心も身体もボロボロになっていった。でも休むわけにはいかない。私は25歳で大人なのだ。会社を休めば収入が減る。稼がねば生活ができなくなる日がいずれやって来る。
自分を励まし、自分のお尻を叩いてきた。でももう限界だった。今日会社に行こうとして玄関を出たら河川敷に足が向かっていたのだ。河川敷についた私は途方に暮れた。なんでここに来たかわからない。
私はただぼんやりとベンチに座るしかなかった。
会社には、体調不良だと連絡をした。
そして今街を歩いている。
夕方になった。日中晴れていたのに今雨が降り出した。ポツポツと水玉を作り地面の熱を和らげていく。私は仕方なく雨宿りができるビルに入った。
このビルは一階がカフェになっていた。
私はコーヒーを頼み窓の外をぼんやりと眺めていた。雨は止みそうにない。
私はコーヒーに視線を戻した。
「あらま、かわいらしい。」
コーヒーの周りに5人の小人さんたちが、雫の帽子を被って立っていた。楽器を持っていて、私にお辞儀をしてくれた。
「雨の鼓笛隊です。あなたが好きだからきました。僕らの演奏を聴いてください。」
小人さんは、勢いをつけて私にそう言うと顔を真っ赤にしながら投げキッスをしてきた。どうやらはずかしいらしく恥ずかしがりながら楽器の演奏をする小人さんたちは、やはりかわいらしい。
私は小人さんたちの演奏を聴いた。透き通った鈴の音。なんだったかしら。とても美しい音で演奏をしてくれる。何故かラブソングばかりだ。
3曲目が終わるとまた私の前に整列した小人さんたちは話しだした。女の子だった。
「あなたはかわいい人です。笑顔がとてもきれい。心に曇りがない笑顔は人を幸せにします。
あなたの笑顔で私たち鼓笛隊は心が温まりました。ありがとう。だから私たちはあなたとずっと一緒にいたいと思いました、だからあなたは見えないものにならないでほしいです。」
小人たちは演奏を始めた。私は、涙を流している。
私は泣きたかったんだ。泣くことも忘れて頑張ってしまったのだ。私を笑わせようと小人たちは演奏途中に面白い顔をする。
私は今日死のうと思っていたのだ。とにかく疲れてしまい、何も見えず、聞こえず、感じなくなった私は生きていることに意味を感じなくなってしまったのだ。
でも今日生きていて良かった。だってあんなにかわいらしい小人さんの演奏を聴けたのだから。
そして小人さんの言葉を信じるとすれば、私は人の心を温かくできたのだ。何もできないと感じていた私でもできることがある。もう少しこの身体を使い生きていこう。
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