乱暴すぎるという理由で、聖女をクビになりました。

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「ミレーヌ! 君を〈聖女〉の役目から外し、この王都から追放する事が決まった!」  ほほぅ?  私はにっこりと微笑みながら、何故か護衛の後ろに隠れながら追放を告げてきた王子に問いかけた。 「なぜですか? 私は〈聖女〉の役目をきちんと果たしていたはずですけど?」  王都の古い建物にとり憑いていた穢れも祓ったし、先日は侯爵閣下の穢れも大事になる前に消し去った。  私が〈聖女〉に認定された13歳の時から、失敗した事など一度としてないはずだ。  私がそう言うと、王子は苦い顔をした。 「確かにそうだ」  あら、意外と素直ですね。 「だが、君は王室に所縁のある由緒正しき教会を全壊させ、トルマリン侯爵に大怪我をさせただろう!」 「まぁ、そうですね」  仕方がなかったのだ。  私は、対象に触れる事で〈聖女〉の力を発揮する。  そして、穢れの大きさに合わせてこちらも力を込めなければいけないのだ。  つまり、穢れが大きければ大きいほど、私は拳に力を込めなければいけない。  教会はすでに建物全体に穢れが取り憑き、力一杯殴らなければ祓う事が出来なかった。  崩れてしまったのは、おそらく建物自体が古かったせいだろう。  ついでに言えば、国から出ているはずの修繕費用が全く使われていなかった事も理由の一つだと思われる。  トルマリン侯爵閣下は軽くはたくだけで祓えたはずだが、以前私が平民の出である事をねちねちと言われた事をつい思い出してしまい、力加減を間違えてしまっただけなのだ。  ……息をしている事を確認した時に、少しだけ残念に思ったのは事実だが。 「君のように乱暴な者を〈聖女〉としているなど、我が国の恥だ!」  そこまで言いますか……? 「新しく、クリスタル伯爵家の令嬢を〈聖女〉として認定する!」  青ざめた顔をした伯爵令嬢が、護衛達の前に押し出された。  ふむ、なるほど。  クリスタル伯爵家の令嬢といえば、確かに癒しの力を持っていると噂されていた。  私の後継者としては、まぁ、妥当だろう。  私と向かい合う形になった伯爵令嬢は、小さく震えていた。  王子はといえば、相変わらず護衛の後ろできぃきぃと喚いている。  自分は安全な所で、私の怒りの矛先を新しい〈聖女〉である彼女に向けさせようとでもしているのだろう。  そもそも、〈聖女〉である私をクビにしようとしているのに、国王陛下も、教会のお偉いさんも姿を見せないのはどういうことだ。  王子の暴走か?  いや、どちらかといえば、王子も貧乏くじを引かされたのだろう。  だからといって、か弱い女の子を盾にしようとは許されざる行いだ。 「王子、お言葉に従います」  私がそう言うと、王子はあからさまにほっとしたようだった。 「そ、そうか。では、早く王都から出て……」 「ですが、最後に一つだけ」  私は、にっこりと笑いながら王子を見た。 「王子殿下に穢れが憑いていらっしゃるようなので、〈聖女〉として最後のお役目を果たしたいのですが」  嘘ではない。  王子の後ろに、真っ暗な靄が見えている。  おそらく、王子個人にではなく王家が長い間をかけて育ててしまった闇だとは思うのだが。  さすがに、王家の人間を片っ端からぶん殴るわけにもいかず、今までは見て見ぬふりをしてきたのだが、〈聖女〉でなくなる私にはもう王子に近寄る機会は今後訪れないだろうから、最後の仕事を片付けていかなければ。  私の言葉を聞き、王子はがたがたと震えだした。 「あ、新しい〈聖女〉に祓ってもらうから、だ、大丈夫だ!」 「いえ、彼女には荷が重いかと」  そう言うと、クリスタル伯爵令嬢はこくりと頷いた。 「おそれながら、私の力では王子殿下に取り憑いた穢れは祓えないと思います」  うん、彼女にもちゃんと見えているようだ。  おそらく、人身御供として差し出されそうになった意趣返しも含まれているのだろうとは思うけれど。  私が近付くと、護衛達が道を開けた。 「な、何をしている! 私を護れ!」  王子が叫ぶと、護衛達は困った顔をした。 「ですが、穢れは祓わなければ……」 「〈聖女〉としての力は確かですし……」  逃げ場のなくなった王子は、じりじりと後ずさっていく。 「いきますよ、王子!」  歯ぁ、食いしばれ! 「ひ、ひぃ……!」  ということで。  最後に王子をぶっ飛ばし、私は早々に王都をあとにした。  新しい〈聖女〉であるクリスタル伯爵令嬢が癒しの力を使ったようだから、命に別状はないはずだ。  おそらく、近い内に国王陛下や王妃殿下は不幸に見舞われるだろう。  あの場に居合わせなかったので、私が穢れを祓う機会は二度と訪れないからだ。  唯一、穢れを祓う事が出来た王子が王位を継げば、しばらくこの国はもつはずだ。  私より力が弱いとはいえ、新しい〈聖女〉もいることだし。 「ふふふ……」  久しぶりの自由に、私は笑いが止まらなかった。  思えば、13歳から6年間〈聖女〉として働きどおしだったのだ。    平民の出だからと貴族にはねちねちとイヤミを言われ、教会の人間は私を利用して甘い汁を吸っていた。  〈聖女〉としての働きに対して支払われていたはずのお金も、教会の人間に搾取されていたのだ。  その中からこつこつと貯めていたわずかばかりのお金と、身の回りの物を持ち、私はこれからこの国を出る。 「自由だぁぁぁぁ!!」  道中、襲ってくる魔物を殴り倒し、しばき倒し、ミレーヌがいつしか〈殴り聖女〉として庶民の信仰を集めるようになるのは、また別の話である。              
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!