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(どうして。どうして!?)  混乱と迫りくる恐怖で足がすくんだのと、トイレのドアが開いて光也が飛び込んできたのは同時だった。 「藤村君!」  光也はすぐさま千尋を胸に抱き寄せ、二人の社員から隠した。その腕は強固な鎖のように千尋の細身を縛りつけ、骨を軋ませる。 「ぁ、んんっ……」  思わぬ痛みの快感に身震いし、濡れた声が漏れ出た。 (……まずい、今のでお腹、きゅんとしちゃった……本当に、フェロモン、出た、かも……)  全身が総毛立ち、うなじがむず痒くなる。抑えたくて、無意識に光也のスーツの胸元を握って顔を押しつけた。 「っ……藤村君」  呼応するように漏れる光也の苦しげな声。  今しがたまで、フェロモンを出している自覚は千尋にはまったくなかった。けれどそのときでさえ本当にアルファ社員の発情を誘発していたのなら、微量ながらもフェロモンを漏らしていると自覚した今は、光也にも当然影響を及ぼしているはずだ。 「すみません、専務、私……」 「大丈夫。藤村君、このまま私にしがみついていてください」  千尋をかかえる光也の腕に、さらに力が入る。 「あっ……専務、苦し……気持ち……」  やはり発情しているらしい。わずかな痛み刺激で反応してしまう。  気持ちいいと口走りそうになり、口をつぐんだ。それなのに光也の大きな熱い手がうなじに回り、締めるように力を入れてくる。  息が詰まる苦しさが気持ちよくて、太ももの内側がむずむずしてくる。 「彼は私が抑えますから、あなたがたは早くここから出てください」  指示的で鋭い声だった。その次に人が慌ただしく動作する音と、重い扉が開いて勢いよく閉まった音も聞こえた。  二人の社員が去ったのだろうが、千尋は目を閉じて自身の熱を抑えることに精一杯だ。確認する余裕はない。 「専務も、出てください。僕……私、自分でなんとかしますから」  目を閉じたまま、震える手で光也の肩を押す。といっても長きに渡り突発的なヒートの経験がないから、抑制剤の手持ちはない。個室に連れていってもらうのだけはお願いをして、出ていってもらったら自己処理をしよう、そう思った。  だが、思いも寄らぬ返事が返ってきた。 「こんな状態で一人にはできません。私が、手伝います」  え? と驚いて目を開くと、光也は千尋を片腕にかかえたままドアまで行き、トイレの内鍵を締めた。  そのまま千尋の両手を脇の壁につかせて背に回ると、腰に片腕を回し、千尋の身体がずれないように支えつつ反対の手でベルトを緩め、千尋のスラックスと下着を太ももの真ん中あたりまで落とす。 「ひゃっ、専務!?」  困惑、驚き、焦り。  入り混じった感情の中、薄紅に染まった小ぶりなペニスがあらわになる。さらに間髪置かずに光也にそれを握られ、千尋は身体をしならせた。  
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