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「や、やめ」 「いいから、話さずに集中して」 「そんな、こんな状況でどうやって」  だが、トイレで上司に秘部を触られ、痴態を晒しているのが被虐心にくるのか、千尋のフェロモンに当てられた光也の手が余裕なく扱いてくるのに少しの痛みがあるからなのか、千尋のペニスは光也の手の中で熱を伴う芯へと変化していく。 「藤村君、強くしてすみません。でも、早く処理した方がいい……私も、このままじゃ持ちません」  荒く熱い息が耳にかかる。  うぶ毛を揺らす感覚は首筋にゾワリとくるが足りない。  ────いっそ、耳介を噛んでほしい。 「専務。大丈夫、ですからっ……もっと、強く、強くしてください……!」  あり得ない状況だが、ここにいるのは千尋と光也だけだ。 (専務は部下が社内トイレで発情した不始末を収めようとしてくれているだけだ。迷惑にならないよう、せめて早く終わらせた方がいい)  千尋は光也の方に身体をひねり、顔を向けて訴えた。 「専務、お願いします。もっと強く……」  言いかけて、はっと息を詰める。  何という顔をしているのだろう。  まだごく短い時間だが、今日千尋の目に映った光也は穏やかであり、飄々としていた。  だが今、目の前の光也は額に汗を浮かべ、必死に興奮を抑えているのが見て取れる。それなのに、隠しきれない欲が目をギラつかせていた。  表情のない氷の貴公子などではない。  それは、まるで雄そのものの────  どくん。  獰猛な雄の目に視線を絡め取られ、胸が大きく跳ねた。  毛細血管に至るまで、身体じゅうの血管が自分のものとは思えないくらいに強く速く脈打つ。 「……嚙んで……痛くして……!」  無意識に口走っていた。無意識にジャケットのボタンを開け、ベストとワイシャツをたくし上げ、無意識に光也と対面になっていた。 「お願い、ここ、嚙んで……!」  千尋は胸を反らせて、触られてもいないのに硬く(しこ)った右胸の突起を光也に晒す。 「藤村君!?」 「お願い、専務。痛くして。早く……苦し、からぁ」  もう自分が何を口走っているのかわかっていない。千尋は熱芯の先端から露を滴らせ、淫らに瞳を潤ませた。 「っつ……!」  光也は一度頭を振ったが、千尋の胸の先に顔を近づけ、請われたままに先を口に含んだ。一度手から離れていた熱芯を強く握り込み、同時に胸先に歯を立てる。 「んぁ! あぁっ……!」  千尋が()ぜるのは一瞬だった。  身体を大きくわななかせた千尋は、へなへなと脱力して光也の胸に倒れ込んだ。  光也は腰を落として千尋を支えると、片手でスーツの内ポケットを探り、ペンより少し太い形のものを取り出した。  ペンニードル型の抑制剤だ。光也はスラックスの上から太ももに打ち込み、大きく息を吐いた。  額からみるみる青筋と汗が引いていくのが見える。だが千尋の意識もそこまでだ。  冷静さを取り戻しつつある光也の顔に黒い霞がかかり、ついには真っ暗になって、見えなくなった。
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