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「早苗でかした! ここから出してくれたら、何でも買ってやるからな!」
私は首を振った。
「雅也さん……私、欲しいモノなんてないわ」
「じゃあどこか連れて行ってやろうか? 新婚旅行でいったイタリアなんてどうだ? 俺の無実が証明されたら、たまには夫婦水入らずで過ごすのも悪くないだろう?」
雅也は何を言っているのだろうか?雅也には罪が一つもないとでも思ってるのだろうか?雅也の言葉を聞くたびに心はひんやりとして、どんどん雅也から遠ざかっていく。
「早苗も聞いたと思うが、これは全部あの河本麗華の仕組んだ罠なんだ! ここから出たら……必ず痛い目にあわせてやる! だから頼む! 早くここから出してくれっ!」
私は温度のない瞳で雅也を見つめると、静かに言葉を吐き出した。
「私、知ってるの」
「え?」
「雅也さんが杏子さんと深い関係にあることも。あなたのお父様が死ぬ原因を作った私に復讐するために結婚したことも……」
「なんでっ、それを……」
雅也が目を見開くとわずかに体を震わせた。
「だから……ずっとずっと耐えていたの……良き妻であるように雅也さんの理想の妻であれるように……いつか……私のことをゆるして愛してくれたらって……でも間違ってたわ」
そう、愛情に努力は必要ないのだ。
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