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「その前に・・お前、『天王山』のことを知ってるか?」文哉くんが言いました。
「天王山? 知ってるも何も、あの山は、虫を取りに行く山やんか」
あの山は、夏休みになるとクワガタやカブトムシを捕りに父とよく行ったものです。クワガタはそれほど捕れませんでしたが、セミは何匹も捕りました。捕っては逃がし、その繰り返しを楽しんだものです。
ですが文哉くんは、
「あの山・・もう子供らは入られへん・・いや、誰でも入れんようになったんは知ってるか?」と寂しそうに言いました。
続けて、松下くんが、「そうや、あいつらが子供の楽しみを奪ったんや」と彼にしては珍しく憤って言いました。
「なんや知らんかったんかいな」文哉くんが呆れたように言いました。
僕だけが知らなかったようです。
山に入れなくなったことも、「あいつら」のことも。
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