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「世捨て人を気取っているけど、煩悩まみれ。思ったよりも、つまらない人」
「ま……お、おま……」
━━間男を引き入れようとしたお前が、そんなことを言えるのか。
そう問い詰めたかったけれど、呂律が上手く回らない。眠剤が効いてきたのだ。それでも、猛彦の言わんとしていることを深森は理解したらしい。
「あの男は、ストーカー。一ヶ月前に中途採用でうちの会社に採用されて……社員名簿から私の番号を特定したのね。大丈夫、こちらが訴えられることはない」
「け、けど……お、おれ……」
「あなたの威嚇に驚いて、彼が勝手に倒れたの。傷害罪も適応されない」
安堵したせいか、急激な眠気に襲われれた。横たわる猛彦の全身に、深森は枯葉を落とし始めた。
「お葬式ごっこ。枯葉で埋められて……子どもの頃、やらなかった? この季節に野外で一晩眠ったくらいで、死にはしないわ」
「……」
「私が殺せるのは、私を愛している男だけ」
「……」
「あなたは究極のナルシスト。愛しているのは、自分だけ。だから、あなたは死なないわ。そんなあなたを私も愛せないから。二人で共に過ごしましょう。この世の生き地獄を……」
偽葬の儀式から二十五年が経った。
相変わらず猛彦は自己愛が強く、深森には男の影が尽きない。
愛し合えないままの二人は、生涯を添い遂げる運命にあるようだ。
<了>
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