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間男にとっては不幸にも、猛彦と美森が居住するアパートの階数は一階だった。
「待ちやがれ!」
逃げそびれた間男は、窓から飛び出してきた猛彦に首根っこを掴まれた。
「助けてください!」
「『助けろ』だ? お前、どの口が言う……」
「殺される!」
間男の叫びに、アパート数軒の窓が開く。野次馬的な住人もいれば、「早く通報して!」と叫ぶ者もいた。
「待て、俺は何も……」
「僕は……僕は、深森さんを救いたかっただけです!」
━━救いたい?
「あなた……ご主人は、深森さんを愛していませんよね?」
「お前に何が分かる……」
「深森さんを毎日見ていれば分かります。彼女は、常に憂えている……」
気づいた時には、猛彦の拳が間男の頬をかすめていた。
「人殺し!」
「警察を呼んで!」
「救急車も!」
仰け反り倒れた間男を置き去りにして、猛彦は当てもなく駆け出した。
濡れ髪の深森が、部屋の窓から覗き見ていることなど知らぬままに。
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