【後編】愛する男・愛せない女

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*  暗闇を闇雲に走ったはずが、なぜか森の中にいた。深森と初めて出会った、火葬場の森だ。 「死にたいはずが、『人殺し』と呼ばれるなんてな……」  昔、本当に若造だった頃。確かに喧嘩っ早かった自覚はある。深森に暴力を振るったことはないけれど、二人目までの妻たちには手を上げたこともあった。  たくさんの人間を傷つけておいて、「死にたい」と言いながらのうのうと生きてきた。 ━━最低で軟弱な男だ、俺は。  深森に頼るのは、やめよう。本当に死ぬ気なら、いつだって実行できる。  暗い森の中で、猛彦はズボンの尻ポケットを探る。常用している眠剤が、三錠だけ入っていた。 「これっぽっちで、死ねるとは思わないけれど……」  昏睡したところを、飢えた猪にでも襲われればいい。口いっぱいに唾を溜め込むと、掌に載せた三錠の眠剤を一気に飲み干した。  薄れゆく意識の中、乱れ髪に蒼白顔の女が視界に入る。 ━━あの世からの、お迎えか? 「どこまでも自分勝手な人ね、あなたって人は……」 ━━その声は……深森?
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