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暗闇を闇雲に走ったはずが、なぜか森の中にいた。深森と初めて出会った、火葬場の森だ。
「死にたいはずが、『人殺し』と呼ばれるなんてな……」
昔、本当に若造だった頃。確かに喧嘩っ早かった自覚はある。深森に暴力を振るったことはないけれど、二人目までの妻たちには手を上げたこともあった。
たくさんの人間を傷つけておいて、「死にたい」と言いながらのうのうと生きてきた。
━━最低で軟弱な男だ、俺は。
深森に頼るのは、やめよう。本当に死ぬ気なら、いつだって実行できる。
暗い森の中で、猛彦はズボンの尻ポケットを探る。常用している眠剤が、三錠だけ入っていた。
「これっぽっちで、死ねるとは思わないけれど……」
昏睡したところを、飢えた猪にでも襲われればいい。口いっぱいに唾を溜め込むと、掌に載せた三錠の眠剤を一気に飲み干した。
薄れゆく意識の中、乱れ髪に蒼白顔の女が視界に入る。
━━あの世からの、お迎えか?
「どこまでも自分勝手な人ね、あなたって人は……」
━━その声は……深森?
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