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ちょっと待てぇ!
人間、どこで道を外すかわからない。
素行不良のレッテルを貼られた青年達もそうだ。
彼らだって純粋な時期もあっただろう。
なのに環境や人間関係で知らず知らずの内に悪の道に引き摺りこまれる例も多い。
勿論、進んで世間の逸れ者になろうとする少年もいる。
具体例を上げるとすればーーー
都内で暮らす北野 雷。16歳。
3月生まれにしては同級生と並んでも抜きん出る背丈のある高校2年生。
小学生時代から目つきの悪さと子供じみない迫力の持ち主で、昔から絡まれる事に慣れていた。比例して喧嘩の腕前だけが伸びていった。
中学に上がる頃にはすでに曰くつきの先輩やチンピラから一目置かれ、誰が見ても雷は将来その筋で大物になるだろうと噂されていた。
雷本人もこのまま世間に流される人生を送ると思っていた。
「どーでも良い」
それが雷の口ぐせだった。
そんな彼はごく最近ある事で悩みを抱えている。
※
日曜の昼下がり。
雷は自宅のマンションのリビングのソファに腰を下ろし雑誌を読んでいる、フリをしていた。
どうしても視線が義父である北野 臣(38)に向かってしまう。
理由は、雷が臣に惚れてしまっていたからだ。
それが禁断の恋、なんて事は16の自分にだって分かっている。
けれども、この想いを中々手放す事が出来ずに今に至る。
臣は普通に暮らしていたら雷とはまるで接点のないごく一般的な真面目なサラリーマンだ。
彼は今、雷の近くの椅子に座りテーブルに置いたパソコンを叩いている。
服装はワイシャツとパンツスーツのままだ。
「…おみさん、昨日寝てねーの?」
なるべく自然を装おうとする雷の問い掛けに、臣は液晶画面から目を離さないまま。
「ん~?寝たよ?仮眠だけど」
38歳の臣は超童顔で、サラサラの髪に細い体つきの為、年相応に見られたためしが無い。
けれども、疲れた雰囲気を漂わす今の彼はいつもと違い大人の雰囲気を漂わせている。
臣は慣れた手付きで胸ポケットから煙草の箱を取り出す。
その中から一本咥えるとライターで火を付けた。
ふう、と紫煙を吐き出す臣はなんとも言えない色香を纏っている。
臣は、自分を見詰めてた雷の瞳に気付く。
視線を義理の息子に向けた。
「どしたの?雷くん」
「ッ!なんでも無ェ!!」
咄嗟に義父に顔を背けたのは、照れた表情を見せない為だ。
(アンニュイな色っぽさ醸し出すなよ!反則だろうが!!)
内心、雷が身悶えている事等解っていない臣はふと時計を見上げた。
「って!もうこんな時間!?」
ガタリと席を立った臣はパソコンを手早く操作した後に液晶画面を閉じた。
「ごめんね雷君、お腹減ってたでしょ?」
雷からの視線の理由は「腹が減った。なんか食い物出せ」という無言の主張だと見当をつけた。そのままリビングと隣接したダイニングキッチンへと向かう。
臣は煙草を銜えたままピンクのエプロンを身に纏い、雷に顔を向けた。
「雷君リクエストとかある?」
煙草を手に微笑む臣は可愛らしさと大人っぽさが融合してなんとも云えない魅力を醸し出している。
「…菓子パン」
「えー、雷君若いうちから菓子パンばっかり食べてちゃ栄養偏っちゃうよ〜。今日は一緒にご飯食べよ?」
悪戯っ子みたいに笑う臣。
(あー。やべェ。超可愛い)
雷はテーブルの席に移動した。
「にしても臣さんって煙草吸うんすね。俺初めて見た」
臣はクスリと笑みを溢す。
「吸うよ?たまにだけど。会社で行き詰った時とか、さっきみたいに眠い時に気を紛らわす感じで」
臣は利用頻度の少ない灰皿に吸殻を置いた。
そんな義理の父親から雷は視線を外せない。
鼻歌を歌いながら料理する臣の歳は自分より少し上にしか見えない。
「わッ噴き零れるッ」
味噌汁でも作ろうとしているだろう火にかけた鍋の火力を下げ、ホッと息を吐く様子が…なんともいえない。
(こんな感情早く捨てちまわねーといけ無ェっつーのに、日に日にハマっちまう。…どーすりゃいいんだコレ)
雷はテーブルに肘を付いた手でワシャワシャと自身の頭髪を掻き回す。
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