奪還せよ

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奪還せよ

茹だるような暑い8月のとある日、北野雷(きたの らい)が恐れていた出来事が起こった。 北野臣(きたの おみ)が何者かに攫われた。 目撃者の話によると、大型のバンが帰路に着く途中の臣に横付けし、数人で無理矢理彼を掻っ攫ったとの事であった。 ※ 臣の意識が回復した時には廃屋に居た。 車に押し込まれた際に鉄パイプで頭を殴られたせいで今迄気を失っていたらしい。 痛む頭を抑え、本能でこの場から離れようとしたが、首に鎖のついた犬用の首輪を嵌められていたため逃げ出す事は困難だった。 「お目覚めか?北野臣」 聞き覚えが無い声に視線を送ると、臣に繋がれた鎖の先端を指に絡ませた男が居た。 歳はまだ10代後半だろう。男にしては綺麗な顔立ちをしていた。…みなりから推測するにチンピラだろうか。 臣は瞳を揺らす。 「誰?」 「俺は水谷鳴流(みずたに なる)っつーもんで、此処ら辺の元締めだ」 この言葉は信憑性が高い。と臣は思った。 何故なら廃屋に似つかわない高級な家具や家電が揃えてあり、彼の仲間らしき連中がソファやテーブルに陣取っている。此処が彼等のアジトなのだろう。 その中でひときわオーラを放ち上座に座ってたのが水谷だった。 「…その水谷君が僕に何の用?」 「水谷君、か。随分余裕だなおい」 「ぐっ」 臣が苦しい声音を漏らした理由は、水谷が鎖を強く引き寄せたせいだ。 臣の間近で水谷はほくそ笑んだ。 「お前、俺のもんになれ」 「は?」 「正直タイプじゃねーが、雷がぞっこんだっつー相手だ」 それなりに愉しませてもらわねーとな。 「雷?」 彼のセリフの内容うんぬんよりも、義理の息子の名が出て来た事に臣は反応した。 「キミ!雷くんに悪さしたら僕が許さないから!」 「あ?お前この状況解ってねーのか?」 二人が睨み合った時だ。 ドガァ!と派手な音がし、水谷の手下が吹き飛ばされたのは。 「なぁるぅうぅ!」 此処にくるまで数人倒してきた雷は憎しみを込めて名を呼ぶ。竹馬の友の名を。 「雷くん!…うっ」 息子に駆け寄ろうとする臣を鎖で繋ぎ止めたのは水谷だ。 その光景に雷の瞳孔は怒りで大きく開いていた。
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