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「…おみさん返せ」
「思ったより早いお着きだな雷」
水谷は臣の頬を片手で掴む。
「まだなぁんにもしてねーのに」
「きたねー手でおみさんに触るんじゃねー!」
「雷よー、随分余裕ねーなぁ?コイツがあれだろー?あん時の話にでてた奴。」
数日前。
街で偶然会った水谷と雷。
「雷よー、お前いつ高校退学すんだよ」
逸れ者の道を極めようと、雷より先に自主退学をした水谷。それに対して。
「辞めねーよ」
「は?」
「勝手に辞めたら泣く奴ができたんだよ」
「んだよソレ?新しい女か?邪魔」
「そんなんじゃねーよ」
その時水谷は知らなかった。雷が悪の道から真っ当な人間になろうと藻掻きはじめていた事を。
「俺が認めると思うか?」
その原因となった人間を自分が手玉に取り、雷の目を覚ましてやろうとした。
お前の生きる道はソッチではないと。
小学生の頃、道を踏み外した中でもいい。将来ふたりでビッグになり自分達を虐げた連中を見返してやろうと誓ったではないか。
お互い舎弟や手下は多くいれど水谷鳴流にとっては友人は雷ひとりだけだった。
「…水谷くんキミさ」
事情を知った臣は水谷の肩を抱き寄せた。
「寂しかったんだね」
「はぁ!?」
「おみさん!?」
動揺する二人を他所に臣は顔を上げた。
「雷くん取られちゃうと思ったんでしょ?」
「ああ!?」
凄む水谷。
動じない臣。
「大丈夫だよ。雷くん義理堅いから友達はちゃんと大事にするよ。ねっ雷くん」
臣は一旦雷に向けた視線を水谷に戻した。
「水谷くんはヤキモチ焼いちゃっただけだよね」
「雷…何だこのポジティブなリーマンは」
ピリッとした空気を一瞬で解した臣に水谷は動揺を隠しきれない。
不思議だ。雷の怒りのメーターはとっくに振り切れていたというのに。正常に戻って行く。
雷は出鼻をくじかれた心持ちになった。
それは水谷も同じようでーーー
「萎えた。今日の所は帰してやる」
「萎えた!?お前おみさんに何しようとしてやがった!」
「お前が毎晩コイツに御奉仕させてること同じ事だろーがよ」
「別に何にもして貰ってねーわ!」
唖然としたのは水谷だ。
「お前まだヤってねーの?…雷よーお前いつからプラトニックな関係続けられるようになった?」
「うっせーわ!テメーの管轄外だ!」
「腑抜けかよ」
「ああ!?」
竹馬の友との喧嘩腰のやり取りはまだまだ続きそうだ。
fin
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