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雷が義理の父親に恋心を抱いたのは彼と出会って直ぐの事だった。
約数ヶ月前、雷の実の母親が他界して数日経った頃に臣は母の再婚相手として雷の前に現れた。
君の新しい父親だと。
※
バツイチの母が再婚する前に、雷は彼女から電話で婿をとるが承諾して貰えるかと聞かれていた。母親に全く興味が無かった息子はいつも通り「別に良いんじゃねーの」と無関心に返事をしていた。
それから数日後だ。母が突然病死したと連絡が入ったのは。
その報告は雷にとって悲しみよりも複雑な気分でいっぱいにさせた。
混乱し過ぎて葬儀にも出られなかった。
そんな雷と一緒に暮らそうと話を持ちかけたのが、臣だった。
雷は何度も断ったが、父としての役割を果たさせて欲しいと懇願する彼に根負けしてしまった。
と、言うわけで今現在一緒に暮らしている。
当初は一時的に同居するつもりだったが、一緒に暮らし始めた1日目にして、自分の想いを聞き入れてくれた義理の息子に感動した臣が潤んだ瞳で抱きしめてきたのがきっかけで、雷の中で新しい扉が開いてしまったのだ。
*
(あのババァ、よくも俺のタイプにドストライクな奴再婚相手に選びやがって)
雷は天国の母親に向かってギリリと奥歯を噛みしめる。
雷とよく似た性格をした母の事だ、今頃自分にドヤ顔でも向けているだろう。
(俺が男に惚れるとか…しかも相手が父親。って笑い事にもなん無ェじゃねェか!!)
母の罠に嵌ってしまったみたいで悔しさが沸き上がる。
そんな自分に臣は茶碗によそった白米を向けた。
「雷君、これテーブルに置いといて欲しいな」
笑顔の義父に雷は複雑な表情で茶碗を受け取る。
「…なァ、なんでおみさんはあのババァと結婚したんだよ?」
「『あのババァ』って、もしかして陽子さんの事!?駄目だよ!お母さんの事そんな呼び方しちゃ!!」
雷を一喝した臣は一瞬考えた後に彼の疑問に答えた。
「僕ね、ずっと常識に囚われて生きてきたんだけど、陽子さんにそんなのおかしいって僕の考え一蹴されたんだ」
臣は笑顔を雷に向けた。
「だからこの人と一緒なら今まで味わった事無い人生を送れるのかもって思ったんだ。それに 陽子さんは男性とか女性とか無しで人として魅力的だったし」
臣は寂しそうに続ける。
「今は亡くなって側にいないけど、でもその縁で雷君と会えた訳だし」
眉をハの字に下げた状態で呟いた後に雷を見上げた。
その表情はイキイキとしている。
「今は雷君を立派に育て上げる事が僕の目標だよ!」
良い顔をして云い切る臣に雷は何故か自分の足枷が解かれた気がした。
――――常識を打ち破る事でアイツ(母親)に惚れたって事は、俺の常識外れな想いも手放さなくていいって事だよな?
雷は都合の良い自己解釈を鼻で笑う。
こればっかりは
「どーでも、良くねーわ」
「ん?なにが?」
密かに瞳の奥を輝かせる雷に臣は興味津々な顔を向ける。
そんな想い人に雷は不器用な笑みを溢した。
fin
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