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…待てってば。
茹だるような暑さが続くとある夜。
風呂上がりの北野 雷が裸足で上がったリビングにて目にした光景は、自分より前に風呂に入り終わった義父である北野 臣の姿であった。
腰に手を当て缶ビールを飲む姿は家で過ごす38歳のサラリーマンにはありがちな光景だ。
しかし、年齢とつり合わない童顔の彼が襟の付いたぶかっとしたパジャマの上だけしか身につけてない姿は何か違和感を感じさせられてならない。
首にタオルを下げ、スエットのズボンを履き、上はノースリーブのシャツを着ている自分の方がよっぽどオヤジ臭いと雷は思う。
「おみさん…ズボン、履いてくれない?」
義理の父に絶賛片想い中の息子は彼から赤い顔を逸らした。
「だってまだ熱いんだもん」
ドライヤーをかけていない、濡れた髪を指でいじりつつ息子に向き直る臣は平然と返す。
「…俺、おみさんと初めて会った時はそんな恰好しねー人だと思ってた」
無理矢理一線を超えない為にも、だらしない恰好をするなと云う意味を込めた雷だったが、臣は息子の真意を汲み取る事が出来無かった様だ。
「僕も昔は行儀悪い恰好とか人前で見せない様に気を使ってたんだけどさ、年取る毎に無頓着になってきちゃって。あーあ。歳は取りたく無いね。今じゃ僕もただのオッサンだもん」
自嘲的に笑う臣に、雷は愛しさを越えて怒りさえ感じる。
(ただのオッサンだったらこんなにトキメいてねーわァ!!)
再び缶ビールに口をつける臣は湯上りの所為か普段よりも色香を纏って見えた。
(ヤベェ。目が逸らせらんねェ)
瞳を逸らしたいのに、それが出来ない雷はガシガシと頭をかく。
雷の視線に臣は気付いた様だ。
そして自分の手にするビールに視線を落とした。
「あ。雷君も一緒に飲む?」
臣は雷の熱視線はビールに向けられてたのだと勘違いしている。
「イヤ、俺まだ未成年なんだけど」
「でも雷くん、たまにひとりでビールとか飲んでるでしょ?隠れて飲まれるより目の前で堂々と飲まれた方が僕としても安心するかなって」
「…バレてた?」
「うん」
彼と出会う前迄雷は一人暮らしをしていた。
その頃から雷は普通に飲酒をしていたのだ。
けれども、臣と同居してからは見つかったら何か云われるのじゃないかと思い、父から隠れて飲む事が頻繁だった。
しかし、既に承知されていたとは。
バツの悪い顔で雷は返事をする。
「…飲む」
「ん、分かった。ちょっと待ってて」
冷蔵庫へとビールを取りに向かう臣の後姿を雷は見送る。
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